WRITIN' ON THE WALL
【特集】マイケル・ジャクソン『Off The Wall』
時代の流れを変えた常識破りなソウル・クリエイションにして、以降のポップ・スタンダードとなった究極の傑作――その魅力をいまこそ体験しよう!!
★Pt.1 マイケル・ジャクソン、不世出のマスターピース『Off The Wall』が何度目かの旬を迎えている理由とは?
THE WEEKND
現代のMJ現象を象徴する美しき名作が日本盤化!!

退廃美漂うダークで密室的なサウンドとドラッギーな詞世界。後に『Trilogy』というセットでCD化される3枚のミックステープが無料配信された2011年の時点では、オルタナティヴでキッチュな存在として好事家たちの間だけで偏愛されていくものと思っていた。しかし、謎のヴェールに包まれたまま脚光を浴びた男は、僅か数年のうちに全米を席巻するポップスターとなり、比較対象として、彼の憧れであるマイケル・ジャクソンの名を持ち出されるようになるのだから、何がどうなるかわからない。そして、このたびグラミー受賞歴も加わった。

エイベル・テスフェイが首謀するウィークエンドは、2013年にメジャー配給で『Kiss Land』をリリース。これは全米チャート2位(R&Bでは1位)を記録したが、世界規模で彼の人気を決定的にしたのはこのたび日本盤化される『Beauty Behind The Madness』だろう。2015年にリリースされ、当然のように全米1位を記録した同作は、先日の第58回グラミー賞で7部門にノミネート。それは、『Thriller』発表後のグラミー賞(83年)で多部門にノミネートされたマイケル・ジャクソンを彷彿させるものでもあり、マイケルの記録には及ばないものの、同作は〈最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム〉、そこに収録された映画サントラ曲“Earned It(Fifty Shades Of Grey)”が〈最優秀R&Bパフォーマンス〉の栄冠に輝く。アルバムではブルージーネス漂うアンビエントなスロウ“Dark Times”でエド・シーランとデュエットし、ステージではテイラー・スウィフトと共演するという、今回のグラミー賞で覇権を争った面々との顔合わせもポップ・フィールドにおけるウィークエンドの人気や知名度を上げるキッカケになったはずだ。
オーセンティックなR&B路線では、ソウル・ドッグの76年曲“Can't Stop Loving You”使いでカニエ・ウェストが制作に関与したバラード“Tell Your Friends”があるが、世間が彼の音楽をマイケルと結びつけるキッカケとなったのは、ポップス界の名匠マックス・マーティンが制作し、今回のグラミーで〈年間最優秀レコード〉にノミネートされながら受賞を逃した“Can't Feel My Face”だろう。思えば、ミックステープ・アルバムの3作目『Echoes Of Silence』(2011年)では“D.D.”と題して“Dirty Diana”のカヴァーを披露。そのカヴァーに限らず、青臭く人懐っこいテナー・ヴォイスで力を込めて歌い上げる唱法はマイケルによく似ているが、“Can't Feel My Face”は曲自体が『Off The Wall』期のグルーヴを現代解釈したようなダンス・ナンバーとなっていて、オリジナル・ソングとしては過去最高にマイケルに近づいていた。実際に彼は、『Off The Wall』のデラックス・エディションに付されたドキュメンタリー映画で、「マイケルの声を聴くたびに感銘を受ける。自分はマイケルの“Don't Stop 'Til You Get Enough”でファルセットを学んだんだ」とコメント。“Can't Feel My Face”は、その言葉を明快に体現した一曲と言えるものだ。とはいえ、いわゆるブギー・ディスコのような70~80年代の直球な再現とは違い、基盤となっているのはオルタナティヴなロックやアンビエントR&Bなどで、そこには90年生まれのカナダ人ならではとも言える自由で柔軟な発想が見て取れる。そうした意味では、ロックにも寄った『Bad』期のマイケル風でもあり、やはりマックス・マーティン制作の“In The Night”が“The Way You Make Me Feel”みたいなシャッフル調であるのも妙に頷けてしまうところではある。が、エクスタシーや毒気を孕むアルバム全体のマッドな美しさはプリンスに近く、ここらへんは共同制作者であるイランジェロのセンスも作用しているのだろう。
「みんな忘れていると思うけど、“We Are The World”はエチオピア(飢餓救済)のための曲なんだ。家では、エチオピア音楽以外ではマイケルを聴いていたよ」(Rolling Stone誌のインタヴューより)と、マイケルの名仕事にエチオピア系である自身の出自を重ね合わせてもいるウィークエンド。風変わりなアプローチでR&Bのフィールドに攻め込んできた男が、Off The Wall(=普通じゃない)を謳った男に惚れ込んだのも、いま思えば必然だったと言うしかない。
継承される『Off The Wall』フィーリング
控えめに言っても、90年代以降のR&Bや、ボーイズ・バンドのようなアーバン・オリエンテッドなポップス全般はマイケルの強い影響下にあるわけで……フォロワーたちの作品や、サンプリング/カヴァーやオマージュといった折々のリサイクル例は定期的にまとめてきていることもあって、今回はそことの重複を避けつつ、より『Off The Wall』寄りなものを紹介しておく。bounceの過去記事はバックナンバーや〈tower.jp〉、こちらでも振り返っていただくとして、それ以上は書籍「新R&B教室 マイケル・ジャクソンでつながる ソウル/ブギー・ディスク・ガイド1995-2016」をチェックすればバッチリのはず!

マイケル本人に認められた天才児ながらもいろいろ遠回りしてしまったクリスだが、野心的なステージングも含めた歌と肉体の躍動という部分ではいまも後継者No.1と言えるだろう。本作のデラックス版に収録の“Fine China”(2013年のシングル)は曲調も含めてポスト・マイケル感を珍しくモロ出しした一曲だ。

それ以前のヒット“Because Of You”や“Nobody”では繊細な歌唱と麗しいメロディーメイクによって素直な敬愛を表現し、マイケル本人から曲作りの依頼もあったというニーヨ。マイケル逝去後の本作はトリビュートの意識で制作に臨んだそうで、直球の“Cause I Said So”のみならず随所で影響をさらけ出している

グループからの独立というシチュエーションにマイケルと自身を重ねたソロ・デビューの時点で、後継者としての風格を認められていた彼。長い空白を経て出した今作では、『Off The Wall』でのクインシーを意識したというティンバランドの采配の下、ロウな肉感と未来的な意匠が融合したスタイルを聴かせてくれる。
デ・ラ・ソウルのネタ使いに端を発し、90年代以降の『Off The Wall』の評価を盤石にしたのが幻想的な木漏れ日チューン“I Can't Help It”。その知的なメロウネスと螺旋の旋律はジャズ方面での解釈欲をそそるようで、グレッチェン・パーラトやテラス・マーティンらと同じく本作でも仄温かいカヴァーを堪能できる。

いわゆる〈ヒット・チャートもの〉のセンスの良いオマージュで聴かせるのが巧い彼も、究極の目標はもちろんマイケル。本作に収録されている“Treasure”は“Rock With You”への敬愛が爽やかに滲むヒットで、ブギー・リヴァイヴァルにも先鞭を付けた。

90年代にも数多く生まれたマイケル・フォロワーだが、そのなかでセックス・シンボル的な独自性を追求してワナビーの枠を飛び越えたのがこのアッシャーだ。アルバムはご無沙汰ながら、近年のパーカッシヴな“Good Kisser”に至るまでマイケル的な快感を備えた曲は多い。

生前のマイケルに寵愛され、3曲を書き贈っていたR・ケリー。『Love Letter』では“You Are Not Alone”を作者としてセルフ・カヴァーしていたが、この最新作に収録の“Keep Searchin'”では“The Lady In My Life”を借景して熱烈なアドリブでオマージュを捧げている。

ネプチューンズは殿下寄りの色合いが濃かったものの、ソロではマイケル作法の表出が多い? 古今のオマージュで形成されたこのヒット作では、ジャスティン・ティンバーレイクとの“Brand New”がリズムの奔流もろとも『Off The Wall』的!

西海岸フュージョンの大御所たちを招いたことで、必然的にマイケル感も強めになった作品。顔ぶれは『Bad』期を思わせる陣容ながら、ジョン・ロビンソンのドラムは『Off The Wall』作法。マイケル版の“Behind The Mask”とも聴き比べてほしいところだ。

生前のマイケルとも親交が深かったマライア。本作には“Off The Wall”を流麗に歌い込んだ“I'm That Chick”も収録されているが、楽曲の格を引き上げるヴォーカリゼーションに対しての美意識はマイケル譲り。紆余曲折を経て現在は彼のレーベルメイトでもある。

フェノメナルなスケール感という意味でもマイケルに近い域に達した彼女。ここで披露する“Lay Up Under Me”は作者のショーン・ギャレットが発表した曲のカヴァーとなり、“Off The Wall”を思わせる意匠で伸びやかに聴かせる。
まだまだある! 継承される『Off The Wall』フィーリング

その歩みが重なる部分はもちろん、ソロ・デビュー作を『D-ROCK with U』と題していたことにも先人への敬意を窺わせていた大知。カヴァーを披露したこともあるが、この最新作ではモダンなブギーのグルーヴに乗った表題曲に優美なマイケル感を漂わせている。

登場してきた頃はリトル・マイケルばりの〈歌うまキッズ〉な雰囲気もあったものの、成長してみればそこはまた独自の道。前作まではネタ使いなどで先人からの影響にも目配せしながら、逆境に追い込まれたところからチャレンジへ向かう姿勢も学んだのかも。

ミキ・ハワードとオーギー・ジョンソン(サイド・エフェクト)という、マイケルとも縁深い両親の血を引いた才能。この初作ではテディ・ライリーとも絡みつつ、ベンジャミン・ライトが弦をアレンジした“Dancefloor”では特に『Off The Wall』的な爽快感を見せた。

マイケルに対しての思い入れは、裏方時代に楽曲提供経験歴のある彼も譲らない。時流を捕まえてファレルと作り上げた本作には往年のスウィートなパーティー・ヴァイブで燃えてみせている。この後で公私共に大変なことになるわけだが……。
ドク・チータムの孫だというトランペット奏者のグルーヴィーなアルバム。ディー・ディー・ブリッジウォーターが歌ううちの1曲は自由に飛翔する“I Can't Help It”で、かつて彼女が取り上げたアフロ・ブルーな“It's The Falling In Love”も思い出される。

フランス産のカクテル・ディスコに乗せてイルファンが繊細な歌唱を聴かせた2010年のシングル“Baby I'm Yours”は、やや早かった『Off The Wall』期のマイケルへの粋なオマージュだった。Saori@destinyがその洒脱さを引用した“OFF THE WALL”も忘れ難い。

THE 1975 I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It Polydor(2016)
トーキング・ヘッズやマイブラと雑食でマイケルを愛するUK次代の大物バンド。このニュー・アルバムではプリンスら多様な先達の影響を織り交ぜながら、フォール・アウト・ボーイにも近いやり口でMJのカラーも忍ばせている。

シカゴ拠点/コロラド出身のシンガーによる、カーリ・シモンズやダズ・アイ・キュー、MdCLらの援護を受けたファースト・アルバム。ハウシーに披露する“I Can't Help It”の身のこなしは、ジャズとソウルのクロスオーヴァーを狙う『Off The Wall』感覚の賜物か。

先日のグラミー授賞式にて“She's Out Of My Life”をグレッグ・フィリンゲインズとパフォーマンスした彼。少年時代からマイケルに憧れてきたというだけあって、越境や折衷をあらかじめ内包した音楽性の中には確かな影響があるはず。今後の楽曲への投影にも期待だ。
歌唱面ではなく演奏面でのインスパイア源となることも多いのが『Off The Wall』の特徴。温かみのあるサニーなソウル/ファンク感を快活に解き放ったような本作は、昨今の日本のシーンにおける風潮をポップな機能性を備えた形で立体化したアルバムだろう。

掲載の機会がなかったのでこちらで紹介……『Thriller』前後に交流の深かったフレディ・マーキュリーとマイケルが試みたデュエット曲のうち、フレディのソロ版で出ていた“There Must Be More To Life Than This”がお目見え。“State Of Shock”も正規で出てほしい。


