©Leighton Pope

大好きなジル・スコットら豪華共演者と共に創る愛にまつわる叙事詩

 機は熟し、新たな伝説を開帳するトランペッター、シオ・クローカー。同じくトランペッターでありジャズ黎明期に活躍した人物ドク・チータムを祖父に持つ彼ですが、かつては7年もの間上海を拠点に活動し、貪欲に演奏の場を求めて世界中を飛び回りキャリアを積んできました。ニコラ・コンテやディーディー・ブリッジウォーターの来日時メンバーにも名を連ねており、実はその時すでに目撃していたという方もいらっしゃるかもしれません。J.コールやコモンらのヒップホップ作品への参加でも注目度を高め、自身の音楽も着実にアップデートさせて遂に2019年作がグラミー賞ノミネート。そして昨年リリースされた前作も様々なメディアで高い評価を得て話題となり、舞台が整ったところでこの新作『LOVE QUANTUM』登場となります。

THEO CROKER 『LOVE QUANTUM』 Masterworks/ソニー(2022)

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 導入でじっくりトランペットの音色を聴かせて、続くナンバーは“JAZZ IS DEAD”……まずジャズというジャンルのレッテルから解き放とうとするメッセージで幕を開け、そこから愛にまつわる叙事詩が紡がれてゆきます。膨大に蓄積したサウンド、アレンジのヴァリエーションから最高のものをセレクトして生み出された、彼にしか辿り着けない新たな領域のブラック・ミュージック。それでいて強烈に〈ジャズ〉を感じさせる作品で、トランペット・プレーヤーとしての圧倒的な表現を絶妙なバランス感覚で楽曲に注入しています。

 伝承を語る長老のようなゲイリー・バーツ、その声を音楽と濃密に絡ませるジル・スコットなど印象的なキャストが次々と登場しますが、全てを司るのは明らかにセオ。彼の発する音、楽曲のパワーが作品を覆いつくします。前作に続いてアートワークは青山トキオが手掛けており、セオは自身の顔・姿をジャケットにその時々の記録のように全面に残してきているのですが、今回こちらは少し控えめに。たいへんカッコいい仕上がりです。