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A$AP Ferg feat. Pharrell Williams & The Neptunes “Green Juice”


天野「話題のラップナンバーを立て続けにご紹介しましょう。エイサップ・ファーグの新曲“Green Juice”です」

田中「この曲は、なんといってもファレル・ウィリアムズ&チャド・ヒューゴのプロデューサーチーム、ネプチューンズが手がけていることが話題です。しかも、ファレルはボーカルも担当していて、コーラス(サビ)でがっつり歌っています。ダークでサイケデリックでおどろおどろしいネプチューンズのプロダクションには引き込まれますね」

天野「ファーグとネプチューンズというのは、ちょっと驚きの組み合わせでした。というのも、トラップ・ロードことファーグは、エイサップ・モブのメンバーのなかでもかなりストリート感が強いラッパーなんですよね。一方のネプチューンズは、全盛期よりネプチューンズとしての仕事が減っているとはいえ、ポップな仕事が目立ちます。でも、よく考えたら、彼らはもともとクリプスのビートを手がけていたわけですよね。だから、この組み合わせにも納得したんです。そんなネプチューンズのビートの上で〈俺が王、俺が支配者〉と威勢よくライムするファーグは、威厳十分ですね」

田中「ちなみに、ファーグは10月にジェイ・Zのロック・ネイションと契約を交わしたばかりで、『ジェイ・Zと仕事をするのは夢だった』と語っています。しかも、今後は、エイサップ・モブでの仕事以外ではステージネームから〈A$AP〉を取って〈Ferg〉の名前で活動するのだとか。ファーグの新章が楽しみですね」

 

tendai “Infinite Straight”


田中「5曲目はテンダイの“Infinite Straight”。テンダイは、デフ・ジャムが2021年に新たに設立した、UKのアーティストを紹介するためのレーベル〈0207 Def Jam〉の所属シンガーです。〈0207 Def Jam〉はストームジーやレッチ32とも契約しているようで、UKラップ/ポップシーンでの存在感を高めていきそうですね」

天野「ロンドン出身のテンダイは8月に“Not Around”で同レーベルからデビューした新鋭で、この“Infinite Straight”はセカンドシングル。ディープで冷ややかなサウンドが特徴のR&B、という印象だった“Not Around”と比較しても、プロダクションがかなりおもしろくなっていますよね。抑制的なギターリフが特徴で、ちょっとオルタナティブロック感がある。さらに、うなるような歌声にオートチューンや深いエコーがガツンとかかっていて、かなりサイケデリックでトリッピー。トラヴィス・スコット以降のラップミュージックとUKのベースサウンドが出会った感じで、激クールです」

田中「全体的にダークで不穏な空気感をたたえていて、ポーティスヘッドやマッシヴ・アタックのようなブリストル勢にも近い印象です。ちなみに、タイトルの〈無限の直線の道〉とは、〈死に追いかけられているとも思える人の一生〉の暗喩なんだとか。テンダイは、注目しておきたいニューカマーですね」

 

SASAMI “The Greatest”


天野「今週最後の曲は、LAのシンガーソングライター、ササミことササミ・アシュワース(Sasami Ashworth)の新曲“The Greatest”。ササミは、韓国人のお母さんと日本人のお父さんのもとに生まれています。キャリアとしては、もともとチェリー・グレイザー(Cherry Glazerr)でシンセサイザーを担当していたのですが、2018年に脱退してソロに転向しました」

田中最初のソロシングル“Callous”(2018年)ドミノからリリースしたデビューアルバム『SASAMI』(2019年)は、高く評価されましたよね。率直なリリックとボーカル、ギターやシンセを重ねたドリーミーでシューゲイズなサウンドプロダクションが、とても魅力的でした」

天野「ここ数年は本当にインディー系の女性シンガーソングライターたちがシーンを盛り上げていて、ミツキやフィービー・ブリジャーズはもちろん、今年はジュリアン・ベイカーやジャパニーズ・ブレックファスト、ルーシー・デイカスなどが才能を爆発させた傑作を作り上げましたよね。ササミもまさにそんな流れを象徴するアーティストだと思います」

田中「この“The Greatest”は、“Skin A Rat”とともにリリースされたニューアルバムからのシングルです。かなりヘヴィーなギターロックだなと思ったら、なんとメガデスのダーク・バーベレンがドラムを叩いているのだとか。さらに、NYのシンガーソングライターであるヴァガボン(Vagabon)ことレティシア・タムコ(Laetitia Tamko)と、俳優でコメディアンのパティ・ハリソン(Patti Harrison)がボーカルで参加。彼女たちのコーラスをバックに、感情を赤裸々に歌い上げるようなササミのボーカルも印象的です」

天野「日本の妖怪〈濡女〉からインスパイアされたという表現が強烈で、カバーアートもヤバいですね(笑)。さらに、『この曲は、私たちが誰かに抱く最も偉大で重い感情は、それを実現したり、返したりすることができない場合が多いということを歌っている』というササミのコメントが刺さります。『抑圧的なシステムや人間に対する怒りやフラストレーションを、カタルシスによって解放するためのサウンドトラック。ニュー・メタルの影響を大きく受けている』というインダストリアルな“Skin A Rat”も、ぜひあわせて聴いてください」

田中「“The Greatest”は部分的にタイ・セガールのスタジオで録られているそうで、新作はタイ・セガールとの共同プロデュース。さらにハンド・ハビッツ(Hand Habits)、キング・タフ(King Tuff)、クリスチャン・リー・ハトソン(Christian Lee Hutson)と、錚々たるミュージシャンたちが参加しているのだとか。そんな前情報を耳にして、来年2月25日(金)にリリースされる新作『Squeeze』が本当に楽しみになりました」