天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。まずは先週の話題から。10月30日、米クリーブランドで今年の〈ロックの殿堂〉の授賞式が開催。新たにフー・ファイターズ、ジェイ・Z、キャロル・キング、クラフトワークら12組が殿堂入りしました」

田中亮太「キャロル・キングの殿堂入りのプレゼンターはテイラー・スウィフトが務めていて、テイラーによる“Will You Love Me Tomorrow”のカバーを披露しましたね。また、フー・ファイターズのプレゼンターとしてポール・マッカートニーが登場。ポールはフー・ファイターズに加わり、ビートルズの“Get Back”を一緒に歌っています

天野「アツい! まあ、『ビートルズ:Get Back』の宣伝も兼ねているのだとは思いますが(笑)。あと、ファレルが紹介して、デペッシュ・モードやLCDサウンドシステムのメンバーが登場したクラフトワークのトリビュート映像もすごい。YouTubeにアップしてくれないかな~。それ以外のトピックとしては、ヴァイアグラ・ボーイズの結成メンバーであり元ギタリストのベンジャミン・ヴァレ(Benjamin Vallé)の訃報が届きました。これはショックでしたね……」

田中「享年47。死因は発表されていないものの、早すぎる別れに衝撃を受けました。〈PSN〉の2人は、彼のご冥福をお祈りしています。それでは気を取り直して、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Kasabian “ALYGATYR”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉は、新生カサビアンの新曲“ALYGATYR”! このレスター出身のエレクトロバンドは、15年以上にわたってUKロックのビッグアクトとして君臨していましたが、昨年に不動のフロントマンだったトム・ミーガンがアルコール依存やパートナーへの暴力行為といった問題で脱退。メンバーはトム抜きでの活動続行を決意し、10月から再始動を告げるUKツアーをスタート。初日のグラスゴーでのライブは、大きな話題になりましたね

天野「元ミュージックのボーカリスト、ロブ・ハーヴェイがツアーに帯同することが以前から噂されていて、ロブがトムの代わりにボーカルを務めるのではないか……と予想されていましたよね。ところが、いざツアーが開幕すると、フロントに立って歌ったのは、トムとともにバンドの顔だったギタリストのサージ・ピッツォーノ。もともと彼はボーカルパートが多かったとはいえ、今回のツアーでの声量や歌唱、パフォーマンスを含めた、堂々としたステージングが称賛されました。ちなみに、ロブはギターとコーラスで参加していましたね」

田中「そして、地元レスターでの公演では、4年ぶりの新曲“ALYGATYR”を披露。今回、同曲がシングルとして発表されたわけです。いや~、ワイルドなエナジーとサーカスティックな攻撃性にあふれた、彼ららしいダンスロックですね。天野くんも〈逆境を跳ね返すいい曲なんじゃないでしょうか〉と絶賛していたじゃないですか」

天野「新鮮味はないですけど、と前置きしましたけどね(笑)。サージのボーカルには気概と迫力を感じますし、めちゃくちゃパワフルな曲だと思います。カサビアンのデビュー当時、ミドルティーンだった僕としては、ある意味で人生を共にしてきたバンドなんです。そういうバンドが苦境から復活した、というのがやっぱりうれしい。カサビアンの今後に期待したいですね!」

 

Kylie Minogue & Jessie Ware “Kiss Of Life”

天野「カイリー・ミノーグとジェシー・ウェアのコラボレーションナンバー“Kiss Of Life”。かつてのユーロダンスの女王であり、現在も魅力的なダンスポップを作りつづけているカイリー。そして、2020年リリースの新作『What’s Your Pleasure?』でディスコやハウスに接近したジェシー・ウェア。これは激アツな組み合わせですね! 実際、ジェシーは幼い頃からカイリーの大ファンだったようで、Instagramに『子どもの頃の私に、〈いつかカイリーと一緒に曲を作るよ〉と言っても絶対に信じてくれないだろうな』と投稿しています」

田中「そんな積年の愛を経て生まれたコラボ曲が悪いわけはなく、“Kiss Of Life”は最高のディスコソングに仕上がっていますよね。推進力のあるグルーヴ、軽快なギターのカッティング、エレガントなストリングスアレンジ……きらびやかなサウンドがたまりません。〈私に生命力に溢れたキスをちょうだい/キスをして一晩中踊ろう〉と歌う2人のボーカルも官能的。唯一の欠点は、曲の長さが3分と短すぎることですかね(笑)。これは10分くらいあるエディットも作ってほしいな~」

天野「そのうち12インチシングルが出そうですし、ダンスエディットはそっちに入ることを期待しておきましょう(笑)。この曲は、カイリーの新作『Disco』のスペシャル・エディションとして11月12日(金)にリリースされる『Disco: Guest List Edition』に収録。その豪華版では、グロリア・ゲイナーやイヤーズ&イヤーズとのコラボも披露。ディスコファンなら必聴の一作でしょうね」

 

Big Sean & Hit-Boy “What A Life”

天野「3曲目です。ビッグ・ショーン&ヒット・ボーイの“What A Life”。デトロイトを代表する中堅ラッパーと、現在のヒップホップシーンを牽引するプロデューサーがタッグを組んだEP『What You Expect』からのシングルです。EPは、先週末の10月29日にリリースされたばかりですね」

田中「これはかっこいい曲ですね! 〈俺はトリプルプラチナに3回以上なった、なんて人生だ/まるで神のよう、いかさまのサイコロで神は俺を祝福した〉というビッグ・ショーンのセルフボースティングが様になっていますし、ヒット・ボーイの硬質で削ぎ落とされたビートが激クールです」

天野「ビッグ・ショーンとヒット・ボーイは10年前から何度か共演していて、ショーンの近作『Detroit 2』(2020年)でもヒット・ボーイが何曲かでプロデュースを担当していたのですが、やっぱりこの組み合わせはアツいですよね。特にこの曲は〈現行のGファンクやデトロイトのギャングスタラップを意識したんだろうな〉と感じるサウンドで、ハードコアなストリート感がものすごく強い。ラップがめちゃくちゃうまいビッグ・ショーンのフロウもノリにノっていますし、最高ですね! ミュージックビデオのど頭でバーンと出てくる〈なんて人生だ〉という日本語には笑いましたけど(笑)」