ワーナーミュージックの洋楽名盤シリーズ〈FOREVER YOUNG〉のリイシューを紹介する連載! 今回は待望の来日公演を控えたダンス・ディーヴァの6タイトル!
洋楽名盤をリイシューするワーナーミュージック発の〈フォーエヴァー・ヤング〉シリーズからタイムレスな定番タイトルを紹介していく連載。今回は3月5日に登場する第6弾より、カイリー・ミノーグがパーロフォンに残した6タイトルをご紹介します。
カイリーといえばちょうど14年ぶりの来日が決定し、3月12日の東京・有明アリーナにおける一夜限りの公演を控えているタイミング。そんな彼女のこれまでのキャリアを大雑把に分類するなら、ストック・エイトケン・ウォーターマンのサウンドで鮮烈なデビューを飾った80年代のPWL期、アーティスティック志向を強めるも商業的には後退した90年代デコンストラクションでの〈インディー・カイリー〉期、そしてそこから華々しくポップ志向に回帰して大復活を果たしたパーロフォン移籍後の00年代以降、という感じになるでしょうか。
2016年からは自身のレーベルを拠点とし、近年も“Padam Padam”を輩出した『Tension』(2023年)とその続編『Tension II』(2024年)を連続でヒットさせているカイリーですが、実際のところ、復活して第2の全盛期を迎えて以降は大きく失速することなく20年以上も最前線での存在感をキープし続けているわけで、つまりはここ数年の安定ぶりもパーロフォン時代の爆発的な再ブレイクがあったからこそ実現されたものなのです。そんな現在のスタンスに直結する名作の数々をこの機会に再確認してみましょう!
パーロフォン移籍作にして30代最初のアルバムとなった通算7作目。心機一転してユーロ・ポップ〜ディスコのキャッチーなスタイルに回帰し、象徴的なゴールドのホットパンツで踊るMVも名高い“Spinning Around”が10年ぶりの全英No.1シングルになったほか、哀愁ユーロの“On A Night Like This”、ロビー・ウィリアムズとの“Kids”がいずれも全英2位を記録。ヴィレッジ・ピープルばりに仰々しい“Your Disco Needs You”などディスコ表現も多面的で、ラテン風味の“Please Stay”やラヴ・アンリミテッドのカヴァー“Under The Influence Of Love”などは現在もカイリーを支えるビフ・スタナードとの手合わせ。同年のシドニー五輪開会式で歌った効果もあってか初の全豪No. 1を獲得し、新たな全盛期の到来を告げた名作だ。
前作の幅広いディスコ情緒を近未来的なフィルターで濾過し、よりクールでロボット的なエレクトロニック・ポップやニュー・ディスコの方向へと推進した通算8作目。中毒性のある無機質な鼓動に魅惑のフックを備えたキャシー・デニス&ロブ・デイヴィス作の全英/全豪No.1ヒット“Can’t Get You Out Of My Head”が大きなハイライトとなっているほか、ビフ・スタナード軍団が“Spinning Around”を踏襲したような“In Your Eyes”、よりハウシーなグルーヴを備えた“Love At First Sight”という2つの華やかなヒット・チューンをプロデュースした。アルバムとしても9年ぶりの全英1位を筆頭に世界各国のチャートを制し、USでも初めて3位にランクイン。結果的にこれまでのキャリアで最大のセールスを上げている。
復活の原動力となったディスコ路線から絶妙に角度を変え、〈80年代のエレクトロ・ポップ〉というテーマを掲げながらスクリッティ・ポリッティやプリンスのような影響源をエレクトロクラッシュなど同時代のトレンドと接続した意欲作だ。新顔も多く迎えられ、ミニマルなテクノ風味の全英/全豪No. 1の先行シングル“Slow”はエミリアナ・トリーニや(あの)ダン・キャリーらがプロデュース。ジョニー・ダグラスによる“Red Blooded Woman”や“Chocolate”では当時のティンバランドを思わせるR&B/ヒップホップにもアプローチ。大御所カーティス・マントロニックもエレクトロ色を導入するポイント。全英6位/全豪2位とチャートでは後退したが、同時代のメインストリーム感覚をカイリーらしい品の良さでまとめた佳作だろう。
文字通りの通算10作目。2005年のツアー途中でガン治療に伴う休養に入り、翌年のツアー復帰への過程で制作を進めていたようだが、病の克服をポジティヴな雰囲気には反映しつつも私的な告白を歌わないのがカイリーだ。フリーメイソンズら初顔合わせも含めて制作陣は幅広く、同時期にデビュー作を出すことになるカルヴィン・ハリスを抜擢した“In My Arms”はレトロなシンセ・ポップ、先行ヒットの“Wow”はグレッグ・カースティンらによるディスコ・ポップ、さらにブラッドシャイ&アヴァントがダフト・パンク風の“Speakerphone”を手掛け、カットファーザーらによる“All I See”がギャップ・バンドをネタ使いしたR&Bテイストだったり、着たい服を自由に試着しまくったノリはやはり復帰作ならではか。全豪1位/全英4位を記録。
スチュアート・プライスをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎え……となると当然マドンナが思い浮かぶわけで、敏腕の采配によって改めて自身の王道スタイルに立ち戻った11作目。全英3位を記録した“All The Lovers”をはじめ、ナーヴォと共作した“Put Your Hands Up (If You Feel Love)”、カルヴィン・ハリス作のレイヴィーな“Too Much”、他にもセバスチャン・イングロッソ、ジェイク・シアーズ、キッシュ・モーヴ、パスカル・ガブリエルら参加クリエイターは数多いが、ディスコ〜エレクトロ・ポップを軸とした全体にはいつも以上の麗しい統一感がある。作風の明快さもあってか全英1位に堂々の返り咲き。本作を引っ提げた世界ツアーにおいては、2011年4月というタイミングながらも約20年ぶりの来日公演を敢行した。
セルフ・カヴァー集『The Abbey Road Sessions』(2012年)をリリースしてデビュー25周年プロジェクトの諸々を締め括り、新たにロック・ネイションとマネージメント契約を結んで臨んだ12作目。とはいえカイリー自身とシーアがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めた内容はそこまでUS寄りのサウンドに寄っているわけではなく、MNEKら新進のクリエイターと手合わせしながらも主役のトーンが全体を包んでいる点ではいつも通りだ。ファレル・ウィリアムズの手掛けた幸運な“I Was Gonna Cancel”、エンリケ・イグレシアスとのコラボ“Beautiful”、モンスターズ&ザ・ストレンジャーズがダブステップを導入した“Sexercize”などを収録して全英2位を記録している。彼女は翌年のクリスマス盤を最後にパーロフォンを離れた。