
60歳ぐらいになった時に作れればと思っていたピアノソロ
――そして、nagaluレーベルの第2弾として2021年11月30日にリリースされるのが、佐藤さんの『Embryo』です。1作目となる福盛さんの『Another Story』(2020年)も2枚組ですが、nagaluはすべて2枚組で出すんでしょうか? 第3弾となるRemboatoの『星を漕ぐもの』もそうですし。
福盛「そうなるんでしょうね」
――わざわざモノラルで録っているんですよね。
福盛「はい、モノラルで出します」
――そういう事実を知ると、これは酔狂というか、根性が入っているなあと思ってしまいます。ジャケットもそれぞれに特殊仕様の凝ったものですね。
福盛「まあ、普通にやっても売れないので……」
――他と同じことをやらないという指針は尊いです。でも、続けるのは大変ですよね。
福盛「ジャケットは(デザイナーの)佐藤ゆめちゃんにまかせっきり。すごくいいアイデアを出してくるんですよ」
――佐藤さんの『Embryo』は、ディスク1の“Water”はピアノソロ(通常ジャズでは用いない古典調律を施したピアノを演奏)、そしてディスク2の”Breath”は曲によっては弦楽四重奏も入った内容になっています。
福盛「2枚組を前提でソロとアンサンブルでやらないかと打診をしたんですよ」
――その二つの指針は、プロデューサーからなんですね。
佐藤「僕は最初、ソロを録るつもりはまったくなかったんです。でも、聴きたいと押してくれまして。僕はソロは60歳ぐらいになった時に作れればと思っていたんですよ」
――やっぱり、ピアノソロはハードルが高いというところはありますか?
佐藤「そうですね。今編成をどんどん増やしていきたいという気持ちがありまして。これまで1枚目はピアノトリオで、2作目は6人編成で録音して、人数が増えてきているんです。40〜50代でオーケストラものを書いて、その後にピアノソロを録れればと勝手に思っていました。とはいえ、ここのところはピアノソロでライブする機会も増えてきてはいるんですけど。ソロで演奏するのは、最初は苦痛でした。2人以上でやるのと1人でやるのとでは大違いで、すごいストレスだったんです」
――でも、そのディスク1を聴くと、ストレスとは無縁じゃないですか? 本当に自然体で、浮かんできたメロディーだけを拾ってピアノを弾いているという感じがします。
佐藤「そうなんですよね。アンサンブルとは違う、ソロの良さが分かってきたんです。全然違う良さがあって、シンプルにメロディーを弾くのが9割ぐらいで、いわゆるインプロは少ないんです。でも、メロディーを弾く瞬間というのは自分にとっては即興に対する新たなアプローチでもあるんですよ。だから、僕の中では即興から離れたつもりはまったくないんです。それから、ピアノソロは小曲集みたいなものを作りたいという思いがありまして、1曲は短くてシンプルで、聴いていると次の曲になっているみたいなものにしたいと思いました」
――そして、ディスク2の方はずっと追い求めてきたものなんですよね。
佐藤「そうですね。編成に関しては、進也君の提案で定まっていったんですよ」
福盛「nagaluを立ち上げようかと話が出た時に、メロディーがはっきりと出る小作品集のようなアルバムを録りたいねと浩一君に電話したんですよ。それが2年前かな。僕の中ではエレキギターと弦が入っているイメージがあって、それを話したら、そこから浩一君がどんどんアイデアを練ってくれました」
――アレンジは佐藤さんがやっているんですよね。
佐藤「弦はそうで、あとは現場でディレクションしていきました。弦に関しては、クラシックにならない感じで、自分のピアノを前に出しているつもりです」
――ディスク2のほうで福盛さんは半数の曲に入っていますが、どんな感じで叩こうとしたのでしょう。
福盛「僕は……ドラムが入らなくてもいいんじゃないかと思ったんですよ。そんなにプロデューサーが前に出なくても、と」
――では、プロデューサーとして、どんなことに気を使いました?
福盛「構成ですかね。浩一君が曲を作った段階から一緒に考えたり話をしたりし、そこから浩一君がアレンジし直したりしていって、そういうところに気を使ったかな」