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Maxwell “OFF”


田中「3曲目はマックスウェルの新曲“Off”です。2022年春にリリースされる予定の、6年ぶりの新作『blacksumers’NIGHT』からのファーストシングルです」

天野「某D様とか、R&B/ソウルの世界には超寡作な天才肌のアーティストって少なくないんですけど、マックスウェルもその一人ですね。とにかくリリースのスパンが空くので、ファンはやきもきせずに、気長に待っているのかも(笑)。そんなマックスウェルの2009年の傑作『BLACKsummers’night』は、当初から3部作だとされていました。続編『blackSUMMERS’night』が発表されたのは2016年。そして次作のリリースが2022年なので、13年越しに3部作が完結。まさか、こんなに時間がかかるとは……。気が遠くなりそうです。でも、この素晴らしい新曲を聴いた瞬間に、どうでもよくなりました」

田中「マックスウェルは2018年に“We Never Saw It Coming”と“Shame”の2曲を発表していて、今回の“Off”は3年ぶりの新曲ですね。幽玄なギターとシンセサイザーの響き、セクシーなベース、ゆったりとしたビートを打つドラムと、まずはその心地よくとろけるようなアレンジとプロダクションにやられます。プロデューサーは、これまでの作品と同様に〈Musze〉名義のマックスウェルとハッド・デイヴィッド(Hod David)です」

天野「前作にはロバート・グラスパーやデリック・ホッジが参加していたので、ジャズシーンとの関わりという点でも、バンドメンバーは誰なのかが気になるところ。そして、なによりもマックスウェルの艷やかでスウィートなボーカルが最高ですよね。本当にうっとりしちゃいます。ちなみに、この曲は、自分のレーベル〈Musze〉を立ち上げて、BMGと契約したうえでリリースされたものです。マックスウェル自身が権利を所有して、すべてをコントロールできるようになったので、今後の活動への期待が高まりますね」

 

Wu-Lu “Broken Homes”

天野「去る者あれば、来たる者あり。というわけで、こちらはワープに加入した新人です。南ロンドンを拠点に活動するウー・ルーがワープと契約したことを発表し、あわせて新曲“Broken Homes”を発表。彼は、これまでにオスカー・ジェロームやエゴ・エラ・メイなどの作品に参加し、2018年にはジャイルズ・ピーターソン率いるブラウンズウッドのコンピレーション『Brownswood Bubblers Thirteen』に曲を提供していましたね。ウー・ルーの音楽はジャズやソウル、ダブを融合したダークなサウンドが特徴で、よくブリストルサウンドが引き合いに出されます。あと、レディオヘッドっぽさもありますね」

田中「特に今年リリースされた彼の曲はノイジーなギターサウンドが特徴で、マッシューム脱退以降のマッシヴ・アタックに重なるところがありますよね。とはいえ、ウー・ルーのサウンドは、マッシヴ・アタックよりもフィジカルな側面が強くて、そこがいいなと思っています。この“Broken Homes”も、ドラムが実にパワフル。うなるようなボーカルを含めて、90年代グランジっぽさが特徴的です。ポストパンクのリバイバルを経て、90年代インディーは、いま改めて検証すべきサウンドだという気がしますね」

 

Huerco S. “Plonk IV”


天野「今週の最後は、先鋭的なエレクトロニックミュージックを紹介しましょう。フエルコ・S.の新曲“Plonk IV”です。カンザス出身の謎めいたプロデューサー/DJ、ブライアン・リーズ(Brian Leeds)がこの名義でリリースする6年ぶりのアルバム『Plonk』からのリードシングルですね。シンセサイザーのレイヤーを重ねた優美かつドリーミーな独自のサウンドが高く評価されてきた彼は、アンビエントの再評価を牽引してきた存在でもあります」

田中「エレクトロニックダブの新たな地平を開拓したペンダント(Pendant)名義の作品も素晴らしいですし、現代の電子音楽シーンを語るうえでは欠かせない存在ですよね。そんな彼にとってこの“Plonk IV”と新作は、新境地と言えるものなのではないでしょうか。これまで以上にビートをしっかりと前面に出していて、くぐもっていてオブスキュアだったサウンドはかなり輪郭のはっきりしたものになっています。フロアユースのど真ん中というわけではないですが、ベースミュージック~レフトフィールド的な文脈でDJセットに組み込めそうな一曲。特に金物の鋭い音が右へ左へと動いていくさまは、クラブのサウンドシステムで聴いたらものすごい音響空間を作り出しそう……」

天野「テクノ化を推し進めたサウンドですよね。フエルコ・S自身はアンビエントブームに違和感を持っていたそうなので、その意識から新しいことに挑もうとしたのかもしれませんね。それにしても、僕は彼がデビューした当時からのファンなので、今回の復活はうれしいかぎりです。新作『Plonk』は2020年2月25日(金)にリリース。すごく楽しみなアルバムです」