アルゼンチン、ペルー、そして奄美~3人の音楽が隔たりを越えて想いをつなぐ
3人寄れば文殊の智恵という。このアルバムは打ち合わせも録音も遠隔で行なわれたが、その言葉を絵に描いたような仕上がりだ。
マリアナ・バラフはアルゼンチンのブエノスアイレスでロックやジャズから音楽活動をはじめた。いまは北部山岳地帯の都市サルタを拠点に、宅録フォルクローレともいうべきチェンバー・ポップをやっている。
奄美生まれの里アンナは、東京でポップスやミュージカルを体験しつつ、幼いころから習っていた奄美の島唄にも積極的に取り組んできた。その歌声は大河ドラマ『西郷どん』のテーマ曲でおなじみだ。
ペルーのアンデス山地アヤクーチョ生まれのイルマ・オスノは、首都リマで教員生活を送りながら民族舞踊団に所属していた。いまは日本に暮らしながら故郷の先住民の民謡を多彩な形で紹介している。
ユニット名は3人の名の頭文字をとってMAI。辞書を引けばアラゴン語の「母」をはじめ、さまざま意味に解釈できる言葉でもある。アルバムには、計10曲が収録され、それぞれの持ち味が発揮されたソロの曲はもちろん、共演曲におけるメロディやリズムや歌詞への配慮が素晴らしい。「ここには国境も宗教もない」とマリアナの歌詞にあるが、おたがいの音楽やそれが生まれた社会に対する愛があり、自己主張を超えた音楽のよさを感じさせる。たとえば、埋葬された両親を思う村人の歌(イルマ)に親離れで泣く子供の歌(アンナ)が続き、祈りのこもった多重録音のコーラスが交錯してくる 《マイタム・カワンキ&豊年》。悲しみの歌を喜びの歌で包みこんだ《六調~雹と雨》……。
タイトルの『ブリサ・コン・トレス・アロマス』は、3つの芳香をはこぶそよ風。情報の浮力によって、ともすればローカルな文化までもが根こそぎ消費されかねない時代に、凛と咲く花たちの舞い。そしてアンナと奄美の俊英前山真吾による《長雲》 の意外性。うたわれる場によって祝い歌にも別れの歌にもなるというこの歌も見事な余韻を残す。
LIVE INFORMATION
『Brisa con tres aromas』アルバム発売記念コンサート
〇2021年12月11日(土) 18:00開場/19:00開演 ※ライヴ配信も行います。
会場:CONTON TON VIVO(四谷三丁目)
出演:里アンナ(vo, hp, 三線)佐々木俊之(ds)里歩寿(vo, 三線)イルマ・オスノ(vo, Chinlili, Tinya)森川拓哉(vn)池宮ユンタ(perc)
ヴィデオ出演:マリアナ・バラフ(vo, etc.)
https://eventlive.exblog.jp/29747175/