インタビュー

アルゼンチン・フォルクローレの境界拡げるマリアナ・バラフ、ライヴに近い試みのリピート多重録音で仕上げた新作を語る

(C)Hiroshi Takaoka

 

太陽の化粧をほどこし
強い風に立ち向かうパワーを携えて

 鋭い目ヂカラで何事かを訴えかける、マリアナ・バラフの最新6枚目『バジスタ~谷に住む女』。最大の魅力は、アルゼンチン・フォルクローレの境界を拡げる独創的アプローチと、確かなルーツ・パフォーマンスだ。5年前、拠点を首都から北西部サルタ州に移し、山唄コプラの魂を曲作りの芯としてきた。素朴な節回しをリピート多重録音で効果的に仕上げた、ほぼライヴに近い初の試み。それにしても、この出で立ちは何だ?

 「金属的な鎧みたい? デザイナーのマルティン・チュルバがドバイ出店のため発表した特別コレクションで、顔を覆う必要があった。ヴィジュアルアーティスト、カタリーナ・スウィンブルンとの共同制作。強い風と砂を表現していて、CDのテーマと繋がっている。現代でも多くの女性が口を閉ざし、男たちの暴力にじっと耐えている。目は多くを語る……でも、今こそ声を発し、立ち上がって闘おうと訴えるメッセージなの。母国では今、女性に対する暴力の記事を見ない日はないほど、問題は深刻。地域や階層を問わず、ね」

MARIANA BARAJ バジスタ~谷に住む女 Beans Records(2015)

 マリアナが社会の現実に目を向けるきっかけは、“谷の女”との出会いだった。2009年のドキュメンタリー映画『私が叩くこのカヒータには口があって、よく喋る』で、彼女は山唄を紡ぐ羊飼いを訪ねている。

 「彼女たちの存在、自然に生きる女性にインスピレーションを受けたわ。私の祖母を含めてね。彼女たちは化粧することを知らない。でも、太陽に焼かれた光り輝く肌の美しさなの。私はばっちりメイクするけど(笑)、おそらくこのアルバムにも、太陽の化粧がほどこされているんでしょう。自然でオーガニック。母方の祖母は、サンティアゴ・デル・エステーロに住み、ケチュア語を喋り、海を知らずに亡くなったの」

 実はこのルーツこそ、血が沸き立つような大太鼓ボンボ奏法の要だ。名手は皆、同州出身者だから。

 今回バンドでなく、独りで録音したのはなぜ?

 「いつもライヴはグループで演奏しているけれど、必ず私だけのソロがあって、そのパートがすこぶる評判がいい。熱狂したお客さんから帰り際、ソロのCDはないの?と、よく訊かれたわ。自分でもやりたいと思っていたし、要望に応える意味もあったわけ」

 唯一のゲスト参加、グスタボ・サンタオラージャとは、ロック界だし、以前からコンタクトがあった?

 「ええ、少女時代から(笑)。グスタボは“アルコ・イリス”、父ベルナルド・バラフは“アルマ・イ・ビーダ”。ともに活動時期がほぼ同じバンドで、ちょっとヒッピーだった(笑)。ずっと彼の仕事、特にフォルクローレを融合させた、独自の音楽手法が大好き。フォルクローレ音楽史において極めて重要な、レオン・ヒエコとの共作『ウスアイアからラ・キアカまで』で、彼は録音にも携わり、私の尊敬するレダ・バジャダレスと旅をし、直接の交流があった。私は、レダの作品や採譜を通しての繋がりに過ぎないけれどね」

 そのグスタボを、ゲスト指名した理由は?

 「フリエタ・ベネガスに招かれた時(※2008年『MTVアンプラグド』)、いつか一緒に何かやりたいねと話し合っていたの。《土砂降り》という歌を作る際、もう最初から彼の歌声を頭の中でイメージしていた。ベトナムの口琴を鳴らし、コプラを作曲しながら、彼の声の刻印を押したいと考えていたから。依頼状を書いて送ったら、すぐ返事がきた。たぶん今回の録音が、さらなるグスタボとの共演の始まりになると思うわ」

 やはり前述の映画における出会いが、現在のマリアナの創作の源泉だった。商業主義に侵されず温存されてきた、コプラ紡ぎの女性たちの知性と生き方。

 「今住んでいるのが、実は羊飼いフリア・ビルテの家へ向かう道の途中だったの。よもや10年後、私自身がそこに暮らしているとはね」と、フォルクローレ不朽の名曲に詠まれた麗しの町の住民は、にっこり笑った。

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