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意志を示すメッセージ

 アルバム・タイトルのみならず、曲名はヴォーカル曲/インスト曲を問わず強い意志を感じさせるものばかり。さらにクレジットにも目をやると、やはりひときわ目を引くのが“Get Up”にゲスト参加したジャズ/ソウル界の巨人、ロイ・エアーズの名だ。

 「これまでに何度かお会いする機会があって、直接コラボの打診を冗談混じりに話してはいたんですが、いざマネージャー宛に正式なオファーをメールしても一向に返信がない(笑)。そこで、2019年3月の来日公演でオープニングDJをさせていただいた機会に、ロイ・エアーズ関連曲縛りでDJしたんです。ウィリアム・アレンとか、ハリー・ウィテカーとか、フィリップ・ウーとか。そのプレイを聴いていたご本人が感激してくださって、最終的に参加を決めてくれたっていう経緯があったりします」。

 他にも、早い段階で完成していた“Get It Together”は共演した際に演奏を聴いたURのメンバーが〈自分たちのライヴでも使いたいからトラックを送ってほしい〉と頼んできたという逸話も納得のデトロイティッシュなメロディーが印象的な一曲だ。

 「この曲は当初、弟はインストを想定していたんです。でも、最終的に完成した楽曲はヴァネッサの歌の内容が本当に素晴らしかったし、KJMのクロスオーヴァー感をアルバム中でいちばん色濃く反映していて、いろんな音楽的要素のハイブリッドという意味で僕らの新たな代表曲になりうる一曲になったと思います」。

 また、10分を超え、終盤でしっかりと存在感を放つ“Revolution Evolution”には沖野ならではのDJ的視点が加わっている。

 「テクノ的なエッセンスと生音のジャズ、それとKJMらしさ、これらをどう融合させるかに苦労した一曲です。弟の要望で展開部を入れる構成にしたり、ドラムとパーカッションの掛け合いに関してはメンバー同士に委ねてみたり、バンドのチームワークがうまく発揮されています。さらにキーボードのリフレインを1回から2回にすることで、その後に続くミニマルなドラム・ソロとのコントラストがより明確になるように配慮しています。編集というと短くするのが一般的ですが、この曲は逆に長くしているんです。弟が編集したハウス・ヴァージョンも用意していますので、楽しみにしていてください」。

 他にもいくつかの曲はリミックスの話が進んでいるそうなので、ここに収録された楽曲たちが内外の才能とどういったケミストリーを生み出していくのか、リミキサーなどの詳細が明かされるのも非常に楽しみなところである。その一方で、来春には森山威男をフィーチャーしたKyoto Jazz Sextetのアルバム・リリースを控えるなど、コロナ以降を見据えて、沖野の制作モードもさらに加速しているようだ。

 「実はKJMの3作目のデモも半分くらい出来ているし、ソロ作にも着手しています。ファッション業界の年2回のコレクションに倣って、年2枚のペースで出していきたいですね。幸いなことにコロナウイルスで亡くなった友人はいませんが、ここ数年でフィル・アッシャーやRYUHEI THE MAN、それに僕らのファンを公言してくれていたヴァージル・アブローなど、身近な人が亡くなっていることもあって、僕自身もいつ死ぬかわからないという漠然とした死への恐怖を改めて感じています。ですから、自分の頭の中にあるアイデアは一刻も早く形にしておきたい。この気持ちが大きなモチベーションになっているんです」。

参加アーティストの関連盤。
左から、ベイカー・ブラザーズft.ヴァネッサ・フリーマンのライヴ盤『Live』(Pヴァイン)、ROOT SOULの7インチ“SPIRIT OF LOVE”(AT HOME SOUND)、cro-magnonの2019年作『cro-magnon city』(Jazzy Sport)、JariBu Afrobeat Arkestraの2019年作『NEW WORLD』(ぶどうレコード)、SOIL & "PIMP" SESSIONSの2021年作『THE ESSENCE OF SOIL』(Getting Better)、エイドリアン・ヤング&アリ・シャヒード・ムハマドの2020年作『Roy Ayers』(Jazz Is Dead)