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リユニオンと大きな転換点

 そんなMicroとShenがふたたび邂逅したのは、2009年の終わり頃。Shenに子どもが生まれたことをきっかけに再会した二人は、〈この子のために子守唄を作ろう〉と制作をスタート。その際に生まれた“Rays of Light”を収めたアルバム『Mind Shift』(2010年)を引っ提げてリユニオンを発表した。

 トライバルなビートに乗せ、Def Techの帰還をダイナミックに歌い上げる“A-1”、オーガニックな音響と優しく穏やかな歌声で〈冷たすぎるビル風に凍えて肩を寄せる/二人の雲間に差し込む木漏れ日〉というフレーズを紡ぎ出す“Rays of Light”などを含む『Mind Shift』は、もちろん彼らのキャリアにとって大きな意味を持っている。アルバム『Powers of Ten』のインタヴューの際にMicroは「この10年は『Mind Shift』して、何事も〈とにかくやってみてから考えよう〉と切り替えられるようになったんです」と語っているが、このアルバムによって彼らは、さらにポジティヴな姿勢を身に付け、本当に必要なものに向かって生きる智慧を得たのだと思う。

 その後も地球と共に生きることの大切さを描いた“All That’s In The Universe”、愛する人に向けた温かい思いをストレートに綴ったヒップホップ・チューン“My Baby Love”など、豊潤なサウンドと普遍的なテーマを兼ね備えた楽曲を生み出し、みずからの音楽世界を広げ、深めてきたDef Tech。再結成後のターニングポイントとして挙げたいのは、アルバム『24/7』(2013年)に収められた“Bolero”だ。モーリス・ラヴェルの〈ボレロ〉を想起させるリズム、美しい透明感と大らかなスケールを同時に体感できるメロディーが共鳴するこの曲の背景にあるのは恐らく、繰り返し起きてしまう災害、深刻さを増す環境問題や経済的格差。時代はますます暗くなり、人々は癒えることのない傷を抱えながら生きている。しかし、それでも僕たちはすべての感覚を楽しみ、強い気持ちを持ちながら歩き続けなくてはいけない――。“Bolero”から伝わる真摯なメッセージは、10年代以降のDef Techの指針になっていると言っていい。なお、2021年の11月には“Bolero”の対訳リリックビデオ、Billboard Live Yokohamaでのパフォーマンス映像もアップされているので、ぜひチェックしてほしい。