ジャックスの解散、そして休みの国のデビュー
――そしてこの年、ジャックスが解散します。
つのだ「ジャックスの解散って諸説あるけど、あれはよっちやん(早川義夫)がやめると言ったんだよね」
谷野「彼が俺たちに対して動きづらくなったんじゃないの」
つのだ「俺がジャズをやってた時の仲間の東大生のキーボード(藤田秀雄)をセカンドアルバム(69年作『ジャックスの奇蹟』)のレコーディングに連れて来てさ。早川さんは気に入ってなかったみたいだね」
谷野「あのキーボードは好きだったな。この頃、みんなが曲を作り始めるんだよ、各々の個性が丸出しで。すると、早川の個性が消えていく。それもあっただろうね」
つのだ「今でも覚えてるけど、“敵は遠くに”の録音で、半音ずつ上がってくから谷野氏が嫌がってね」
谷野「耳年増だから、カッコつけてフラメンコベースみたいな弾き方にしたわけ」
つのだ「“からっぽの世界”でも〈バーン!〉ってやってたね」
谷野「弓で弾いたりしてね」
つのだ「もうなんでもアリなんだよね」
谷野「〈ブリッジの向こうまで弾いちゃえ!〉ってね(笑)」
――ジャックスの解散と前後して休みの国のアルバムが出ましたが、ライブ活動はしなかったんですか?
谷野「無いよ」
つのだ「レコーディングして終わりだった。仕事が無いしね」
谷野「70年前後の一時期は、GSとフォークの間の真空状態だったね」
つのだ「やっぱり、『ヤング720』※が終わったのが大きいと思う。高校の朝の第一声は〈今朝の『ヤング720』観た?〉なんだよ。だから、それに出られた時はうれしかったもんね」
谷野「ジャックスも何回か出たね」
――70年前後といえば、ニューロックに向かう時期ですね。
つのだ「それで俺、ニューロックに行っちゃったりして」
――つのださんは成毛滋さん、高中正義さんとフライド・エッグを結成しますね。成毛滋さんとはどのようにして出会ったんですか?
つのだ「成毛はザ・フィンガーズってバンドをやってて。レッド・ツェッペリンの“Communication Breakdown”(69年)(のフィルイン)は〈ドンドンチッチチッチチッチ〉から〈ドンドンウドドンドンウドドンドン〉ってやるんだけど、その〈ウドドンドン〉が叩けるドラマーが俺だけだったんだよ。成毛はレッド・ツェッペリンが大好きだったから、〈一緒にやろうよ!〉って言ってきたんです」
谷野「六本木の俳優座でジャックスが演った時に成毛さんが来て、つのだを見つけて、〈一緒にやらない?〉って言ったんだよ。その前に、加藤和彦と半年くらい一緒にやってたよね」
つのだ「サディスティック・ミカ・バンドの前ね。トノバン(加藤和彦)が〈戦艦大和〉ってバンド名を付けて。神谷重徳を呼んで、トノバンと俺の3人にフライド・エッグの高中でバンドらしきものを始めたんだけど、展開が無かったから自然消滅したんだよね」
〈FY FAN〉は〈ゴー・トゥ・ヘル〉
――谷野さんとカイゾクさんは、休みの国のレコードを出してすぐ、次の年にヨーロッパへ行ったんですね。
谷野「うん。70年だね」
つのだ「つまり、レコードを出したバンドが日本にはいないという」
――そして71年の10月に帰国して、〈セカンドアルバムを作ろう〉となったんですか?
谷野「〈フィファーン〉(『FY FAN』)ね」
つのだ「〈フィファーン〉って読むんだ! 俺、ずっと〈ハイハーン〉だと思ってた。どういう意味?」
谷野「スウェーデン語で〈ファック〉〈ゴー・トゥ・ヘル〉だよ。〈fy〉が〈このヤロー!〉で〈fan〉が〈地獄〉」
――〈録音しよう〉と言い出したのはカイゾクさんですよね?
つのだ「多分。どっかから金を持って来たんだよね?」
谷野「いやぁ、実は原盤の権利を売ったんだよね」
つのだ「URCに?」
谷野「そう。あと、このアルバムでは、鳥取の田代正平が結構曲を書いてくれたんだよね」
つのだ「メロディーとコード進行が、ビートルズが作りそうなにおいをさせてるもんだから、カイゾクが気に入ってね」
谷野「田代は、この時代にしては面白い曲を作ってたんだよ。歌詞は無いから、カイゾクと俺で詞を付けてね」
――“マリー・ジェーン”も田代さんの曲ですね。
谷野「そう。詞は俺。カイゾクが書いたことになってるけど。“ドクター・クークー”に“マザー”“飛べないフクロウ”もだね。自分で書いたんだから忘れるはずないよ」
つのだ「カイゾクとよくケンカしてたよね」
――谷野さんの歌詞は言葉がカッコいいですよね。
谷野「“悪魔巣取金愚”はカイゾクの歌詞をいじったんだ。〈世界の果ての時計台から/腐ってしまった影が……〉ってところは俺が書いた。アイツさ、俺の“アネモネの花”を違う言葉にして歌ってて。〈俺はこれをもう肉体化してる〉って言うんだよね」
――ところで、“マリー・ジェーン”は、つのださんの代表曲“メリー・ジェーン”(71年)に曲名が似ていますね。
谷野「その曲を出した時、つのだから電話をもらったよ」
つのだ「休みの国の“マリー・ジェーン”を一緒に練習してて、似たようなタイトルだから、断りを入れたんだよ」
谷野「歌詞はつのだじゃないでしょ?」
つのだ「タイトルは俺が付けたんだけど、歌詞はクリストファー・リン。〈クリストファー・リン〉っていうのは、本当はスウェーデン大使の息子の蓮見不二男さん(ザ・フィンガーズ)で、彼は外国生活が長かったから、あんまり日本語を喋れなかったんだよね」
――〈メリー・ジェーン〉はマリファナの隠語ですが、曲名はそれとは関係ないんですよね。
つのだ「そう、実在の人物。俺が渡辺貞夫さんのバンドにいた時、マーガレットという上智大学の留学生の女の子が好きだったんだけど、でも〈マギー〉だとなんとなくバラードにはならない。〈何かいい名前ないかな〉って思ってたら、その娘の友達にメリー・ジェーンという人がいたんだよね」