Page 2 / 3 1ページ目から読む

ウィークエンドから着想を得たのが『swing in the dark』制作の起点

小渕「ではそろそろ新作『swing in the dark』のお話に移りましょう。僕は今作の中で“regret orange”に特に感心しました。ジャズやボサノヴァの要素が入っていて、ジャンルが見事にクロスオーバーしているポップスだなと思って。これは日本のポップスとして、最良の形なんじゃないかという気がします。海外には、こういうのを作れる人たちってなかなかいないんじゃないかなと思うんですよね」

『swing in the dark』収録曲“regret orange”
 

延本「ありがとうございます! “regret orange”に関しては、日本の海辺の観光スポットで、いまはちょっと廃れちゃったホテル街みたいな感じをイメージしていました(笑)。サウンド面では、かなりユーミンっぽい雰囲気を目指していて」

倉品「ユーミンの中でも特に『PEARL PIERCE』(82年)というアルバムですね。あのアルバムにはラテンっぽいリズムの曲が入っていて、聴いたときに〈こういう曲を作りたい〉と思ったので、“regret orange”にはその影響が入っていると思います」

松任谷由実の82年作『PEARL PIERCE』収録曲“昔の彼に会うのなら”
 

小渕「たしかに『PEARL PIERCE』っぽい雰囲気は感じますね。一方で、同時代のミュージシャンやその作品から刺激されたり影響を受けたりすることはありましたか?」

つのけん「個々の曲に関して言うと、“FANTASY”ではゴー・ウェストとかを参考にして、あえてちょっと荒い感じのドラミングを意識してみましたね。あと“nightingale”は、ブルーノ・マーズの“Versace On The Floor”を意識してリズムパターンや音色を決めていきました」

『swing in the dark』収録曲“FANTASY”“nightingale”
 

小渕「僕は“nightingale”を聴いていてアイズレー・ブラザーズなんかに通ずるノリを感じたんですけど、“Versace On The Floor”を参照したと言われると、それもわかります。ブルーノ・マーズって、ギターの弾き語りでも成立するような綺麗なメロディーの曲をその時々の流行りのアレンジでやっていて、そういう点でみなさんと似ている気がします。おそらく目指しているところが同じなんでしょうね」

ブルーノ・マーズの2016年作『24K Magic』収録曲“Versace On The Floor”
 

倉品「たしかに僕らももともと〈弾き語りでも聴かせられる曲を作る〉っていう志で始めたので、それは未だに残っているかもしれないですね。“nightingale”に関しては、ウワモノのアレンジのときにはシルク・ソニックの“Leave The Door Open”とか、あの辺のムードもかなり意識していました。

その他にはSpotifyで最新のプレイリストとかを聴いていて、耳に引っかかった曲からアイデアをもらうことも結構ありましたね。以前はもろにニューミュージックからの影響を出すような作り方をしていたので、あまりそういう同時代的な音楽からの影響を組み込んでいなかったんですけど、前作『Xanadu』の頃から少しずつ変わってきていて、今作に関してはそれがかなり前面に出ていると思います。

アーティストで言うと、The 1975とかウィークエンドからは特に影響を受けましたね。ウィークエンドから着想を得て去年“spring kiss”って曲を作ったのが、アルバム制作のスタートになりました」

『swing in the dark』収録曲“spring kiss”のスタジオライブ映像

 

藤井 風は心のライバル

吉田「海外で80sの音楽への熱が再燃している中で、ウィークエンドのアルバム(2020年作『After Hours』)とかがバーッと出てきたことに刺激を受けていて。それで僕らも、こういう方向性をもっと極めていきたいねというような話をした感じですね」

倉品「僕らも80sっていうものをもう一度捉え直したいタイミングだったんです。親世代が聴いていた日本の80s音楽はもともと自分たちの中に入っているものなので、ソングライティングにもその影響が色濃く出てると思うんですけど、ただそれをそのまま焼き増ししていくだけでは意味がないなと感じていて。いかにいまの自分たちがカッコいいと思えるサウンドでそれを出せるか考える中で、海外での80sリバイバルには刺激を受けました」

小渕「みなさんはもともと体の中に80sのエッセンスが入っていると思うので、ウィークエンドとかの作品を聴くとすぐに〈こうやってやればいいんだ〉っていうのがわかってしまうんじゃないですか?」

延本「最初に彼らの作品を聴いたときに、もちろんまず好きだから採り入れたいと感じたんですけど、同時にどこかで〈自分たちにもできそう〉と思えたっていうのもあるかもしれないですね。

一方で今回参考にしつつも消化しきれなかったところで言うと、Vaundyさんとか藤井 風さんですね。上手く採り入れたかったんですけど、彼らの個性が強すぎて(笑)」

倉品「でもアレンジの匙加減とか各楽器の鳴り方、音の配置の仕方みたいなところに関しては、そういう自分たちよりも下の世代の人たちのサウンドも結構意識していましたね」

小渕「藤井 風さんと言えば、みなさんは彼がYouTubeでカバーする曲とかって、ほとんどわかるんじゃないですか?」

倉品「そうですね。大江千里さんの“Rain”とか歌ってる動画を観ると、めっちゃ興奮します!」

藤井 風による大江千里“Rain”のカバー映像
 

延本「藤井 風さんは好きすぎて、勝手に心のライバルとして設定させてもらってます(笑)。やはり聴いてきたものが近いというのもありますし、藤井 風さんの音楽を好きな人は、きっと私たちの音楽も好きなんじゃないかという謎の自信があります……って炎上するかな(笑)」

小渕「いやいや(笑)。ぜひそれくらいの気持ちで行ってください!」

延本「ありがとうございます(笑)。頑張ります!」

倉品翔による藤井 風“帰ろう”のカバー映像