シルク・ソニック登場! ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによる話題のコンビネーションが創造した華麗な音世界は、今年最後のソウルフルな贈り物だ!

センセーショナルなデビュー

 事の始まりは2017年。ブルーノ・マーズの欧州ツアーでアンダーソン・パークが前座を務め、ナイル・ロジャース&シックのセッションで顔を合わせたことがシルク・ソニックというスーパー・ユニットの結成に繋がった。言うまでもなくブルーノは幼少期に物真似をしていたマイケル・ジャクソンを継ぐポップスターで、マーク・ロンソンとの“Uptown Funk”(2014年)及び自身の『24K Magic』(2016年)でR&Bに接近。一方、ラッパー/シンガーにしてドラマーのパークはソロ活動と並行してナレッジとのノーウォーリーズとしても作品を出し、ドクター・ドレーにフックアップされて『Compton』(2015年)に参加。そんなふたりが2021年2月末にシルク・ソニックとしてのアルバム発表を予告し、3月5日に初シングル“Leave The Door Open”をリリース。グロッケンシュピールが鳴るイントロからしてスタイリスティックスやブルー・マジックといった70年代のフィラデルフィア産スウィート・ソウルを思わせる甘美でスケールの大きい曲に多くの人が虜になった(全米1位を獲得)。発表直後に第63回グラミー賞授賞式で披露したユニット初のパフォーマンスも大きなインパクトを与えた。

 黒幕が〈スペシャル・ゲスト・ホスト〉として要所要所であのユルい声を挿むブーツィー・コリンズであることもオールド・スクールなユニットに箔を付ける。クール&ザ・ギャングとルーサー・ヴァンドロスが同時に降ってきたかのような序曲“Silk Sonic Intro”で、ブーツィーは〈俺が名付けたバンド〉としてシルク・ソニックを紹介。そんな『An Evening With Silk Sonic』は、手直しの必要から2022年初頭への延期が報告されるも、どんでん返しで11月12日にリリースされた。かくして登場したアルバムには、先行発表した“Skate”や“Smokin Out The Window”からも予測できたように、70年代ソウル/ファンクへの愛をストレートに打ち出した曲が並んでいる。

SILK SONIC 『An Evening With Silk Sonic』 Aftermath/Atlantic/ワーナー(2021)

 美しいメロディーに昂揚感を煽るブリッジ、スタジオにミュージシャンが集まって〈せーの!〉で録音した生音のグルーヴ感。70年代そのものだ。思えば2年ほど前、パークはソロ作『Ventura』に収録した“Make It Better”でスモーキー・ロビンソンと共演、ブルーノはオージェイズのラスト・アルバムに楽曲提供するなど、ソウルな気分を高めつつあったのだろう。今年パークが映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のサントラに提供した“Fire In The Sky”(ブルーノらと共作)にもシルク・ソニックに近いムードが感じられた。パークはパンデミックの中で“Lockdown“というポリティカルな曲を出すような社会派でもあるが、シルク・ソニックにおいては歌詞も含めて享楽的なブルーノの流儀に従い、この1~2年に世界で起きた混乱とは無縁なユートピアを作り上げている。