(左から)毛利安寿、Chamicot
 

東京を拠点に活動する5人組バンド、ステレオガール。彼らが先日、セカンドアルバム『Spirit & Opportunity』をリリースした。2020年の初作『Pink Fog』においてもグルーヴィーでダイナミックなロックサウンドを鳴らし、インディーシーンのなかで存在感を放っていたが、この新作でバンドはさらにスケールアップをはたしたと言えるだろう。マッドチェスター、ガレージロック、エレクトロニックなロックンロール……そうした音楽性を備えた多くの楽曲は、これまで以上にダンサブルでサイケデリック。ときにヘビーでときにスペーシ―なギターサウンドや逆回しのエフェクトもあいまって、〈もしストーン・ローゼズが分裂状態に陥らずに『Second Coming』を完成させていたら、こういう音楽を鳴らしていたんじゃないか〉という妄想さえ抱かせる、圧巻のロックレコードだ。

今回はボーカリストの毛利安寿とギタリストのChamicotこと宇佐美莉子にインタビュー。『Spirit & Opportunity』での進化の背景と、そこに彼女たちが込めた思いを掘り下げた。

ステレオガール 『Spirit & Opportunity』 地下室レコーズ(2022)

ここじゃない場所を見つめるのを忘れない

――まずは『Pink Fog』を出して以降、バンドがどういうことを考えながら活動していたのかを教えてください。

Chamicot「『Pink Fog』を出してから、それまでよりも風通しの良い方法で曲を作ろうとバンドが変化していったんです。前作までは私がメインで作っていて、私がデモも歌詞も作りこんだものを持っていくことが多かったので」

毛利「ChamiちゃんがGarageBandでほとんど作っていたよね」

Chamicot「そうそう。あの作業は本当に苦痛だったんですけど(笑)。今回は、スタジオでセッションを重ねながら作ることをめざしました。みんなのいろいろな意見を取り入れて、それをうまいこと調和させながら、アルバム作りをしていこうと」

――新作は、前作以上にダンサブルでグルーヴィーなサウンドになっていると思うんですが、そのあたりも、バンド5人のやりたいことが形になった結果なんでしょうか?

Chamicot「うーん、どうなんだろう。前は、私が1人で行き詰まりながら作っていたので、どうしても固いものになりがちだったんですよね。今はバンドで作っていくうえで、ドラムのYukaちゃんやベースのRikuが、プリミティブに踊れる要素を持ち込んでくるので、その結果、ダンサブルな感じになってるんじゃないかな」

――5人で作り上げていくにあたって、アルバムの全体像として共有していたキーワードとかはあります? バンドなりジャンルなり。

毛利「それは特になかったですね。曲が半分くらい出揃ったときに、〈もしかしたらこれは宇宙っぽい感じになってきたんじゃない?〉みたいな話になったんです。〈じゃあちょっと宇宙っぽいフレーズを足そう〉みたいな、そういう感じでした。〈それならジャケも宇宙にしちゃお〉とか。宇宙というワードが出てからは、そういう広い空間に向けたものにしようと、トントン拍子で進んでいきました。共有していたバンドとかは、特になかったかな」

Chamicot「曲の参考として、ストーン・ローゼズの何かの曲を一回みんなに聴かせる、みたいなことはあるんですけど、全員でそれを研究したりとかはなくて」

毛利「RikuくんとChamiちゃんは、今回はかなりローゼズから(音色やフレーズを)取ってきてたとは思うけどね(笑)」

――宇宙といえばアルバムタイトルの〈Spirit & Opportunity〉は火星探査車の名前から取られていますよね。作品が宇宙っぽくなっていった理由を、客観的に考えることはできます?

Chamicot「なんだと思う? Rikuが急にスタジオで〈宇宙〉と言いはじめたんだよね」

毛利「確か歌詞に宇宙っぽい単語が出てたんだよね。もともとChamiちゃんの歌詞って、特に接点のない言葉と言葉がくっついてたりするし、コラージュっぽいところがあるなとは思っていたんです。そのもの自体は日常で毎日見ているものなんだけど、これとこれをくっつけると、全然違う見え方になると気づかせてくれるような歌詞で、私は彼女の歌詞に〈日常のなかに宇宙がある〉みたいな感覚もあって。

あと、いつもは歌詞の世界観が夜っぽかったんですけど。今回は〈星空〉という言葉があっても、夜っていう感じがしないなと思ったんでです。そういうイメージが重なっていった結果、宇宙が見えてきた気がします」

――それはおもしろいですね。星はあるけど、舞台は夜ではなく宇宙というのが、この作品を表しているような気がします。

Chamicot「それには、今回毛利の書いた歌詞が入っていることも関係しているかもしれないです。私の歌詞は基本的に暗いんですけど、彼女の歌詞はもっと明るい。それが入ったことによって、アルバムに日が差しているような時間があって、前よりもバランスが良い気がしますね」

――さっき毛利さんが言った〈日常のなかの宇宙〉は、サイケデリックというような言葉でも言い換えられると思うんです。もともとステレオガールには〈音楽で違う世界に行きたい/聴き手を行かせたい〉というサイケ志向があるじゃないですか。

毛利「そうですね。ただ私たちは、別にほかの誰かには見えてないものを見ているわけじゃなくて、さっき言ったコラージュみたいな方法で、当たり前にあることを、別の見え方ができるように表現したいんです。ちょっとファンタジーの世界みたいに見えるように。日常のなかで夢をみることを心がけるっていうか、それはすごく希望があることだと思うし、芸術ってそういう面があるものだと思う。ここにいても、ここじゃない場所を見つめるのを忘れない、みたいなことなのかなって思いますね」