
東京を拠点に活動する5人組バンド、ステレオガール。彼らが先日、セカンドアルバム『Spirit & Opportunity』をリリースした。2020年の初作『Pink Fog』においてもグルーヴィーでダイナミックなロックサウンドを鳴らし、インディーシーンのなかで存在感を放っていたが、この新作でバンドはさらにスケールアップをはたしたと言えるだろう。マッドチェスター、ガレージロック、エレクトロニックなロックンロール……そうした音楽性を備えた多くの楽曲は、これまで以上にダンサブルでサイケデリック。ときにヘビーでときにスペーシ―なギターサウンドや逆回しのエフェクトもあいまって、〈もしストーン・ローゼズが分裂状態に陥らずに『Second Coming』を完成させていたら、こういう音楽を鳴らしていたんじゃないか〉という妄想さえ抱かせる、圧巻のロックレコードだ。
今回はボーカリストの毛利安寿とギタリストのChamicotこと宇佐美莉子にインタビュー。『Spirit & Opportunity』での進化の背景と、そこに彼女たちが込めた思いを掘り下げた。

ここじゃない場所を見つめるのを忘れない
――まずは『Pink Fog』を出して以降、バンドがどういうことを考えながら活動していたのかを教えてください。
Chamicot「『Pink Fog』を出してから、それまでよりも風通しの良い方法で曲を作ろうとバンドが変化していったんです。前作までは私がメインで作っていて、私がデモも歌詞も作りこんだものを持っていくことが多かったので」
毛利「ChamiちゃんがGarageBandでほとんど作っていたよね」
Chamicot「そうそう。あの作業は本当に苦痛だったんですけど(笑)。今回は、スタジオでセッションを重ねながら作ることをめざしました。みんなのいろいろな意見を取り入れて、それをうまいこと調和させながら、アルバム作りをしていこうと」
――新作は、前作以上にダンサブルでグルーヴィーなサウンドになっていると思うんですが、そのあたりも、バンド5人のやりたいことが形になった結果なんでしょうか?
Chamicot「うーん、どうなんだろう。前は、私が1人で行き詰まりながら作っていたので、どうしても固いものになりがちだったんですよね。今はバンドで作っていくうえで、ドラムのYukaちゃんやベースのRikuが、プリミティブに踊れる要素を持ち込んでくるので、その結果、ダンサブルな感じになってるんじゃないかな」
――5人で作り上げていくにあたって、アルバムの全体像として共有していたキーワードとかはあります? バンドなりジャンルなり。
毛利「それは特になかったですね。曲が半分くらい出揃ったときに、〈もしかしたらこれは宇宙っぽい感じになってきたんじゃない?〉みたいな話になったんです。〈じゃあちょっと宇宙っぽいフレーズを足そう〉みたいな、そういう感じでした。〈それならジャケも宇宙にしちゃお〉とか。宇宙というワードが出てからは、そういう広い空間に向けたものにしようと、トントン拍子で進んでいきました。共有していたバンドとかは、特になかったかな」
Chamicot「曲の参考として、ストーン・ローゼズの何かの曲を一回みんなに聴かせる、みたいなことはあるんですけど、全員でそれを研究したりとかはなくて」
毛利「RikuくんとChamiちゃんは、今回はかなりローゼズから(音色やフレーズを)取ってきてたとは思うけどね(笑)」

――宇宙といえばアルバムタイトルの〈Spirit & Opportunity〉は火星探査車の名前から取られていますよね。作品が宇宙っぽくなっていった理由を、客観的に考えることはできます?
Chamicot「なんだと思う? Rikuが急にスタジオで〈宇宙〉と言いはじめたんだよね」
毛利「確か歌詞に宇宙っぽい単語が出てたんだよね。もともとChamiちゃんの歌詞って、特に接点のない言葉と言葉がくっついてたりするし、コラージュっぽいところがあるなとは思っていたんです。そのもの自体は日常で毎日見ているものなんだけど、これとこれをくっつけると、全然違う見え方になると気づかせてくれるような歌詞で、私は彼女の歌詞に〈日常のなかに宇宙がある〉みたいな感覚もあって。
あと、いつもは歌詞の世界観が夜っぽかったんですけど。今回は〈星空〉という言葉があっても、夜っていう感じがしないなと思ったんでです。そういうイメージが重なっていった結果、宇宙が見えてきた気がします」
――それはおもしろいですね。星はあるけど、舞台は夜ではなく宇宙というのが、この作品を表しているような気がします。
Chamicot「それには、今回毛利の書いた歌詞が入っていることも関係しているかもしれないです。私の歌詞は基本的に暗いんですけど、彼女の歌詞はもっと明るい。それが入ったことによって、アルバムに日が差しているような時間があって、前よりもバランスが良い気がしますね」
――さっき毛利さんが言った〈日常のなかの宇宙〉は、サイケデリックというような言葉でも言い換えられると思うんです。もともとステレオガールには〈音楽で違う世界に行きたい/聴き手を行かせたい〉というサイケ志向があるじゃないですか。
毛利「そうですね。ただ私たちは、別にほかの誰かには見えてないものを見ているわけじゃなくて、さっき言ったコラージュみたいな方法で、当たり前にあることを、別の見え方ができるように表現したいんです。ちょっとファンタジーの世界みたいに見えるように。日常のなかで夢をみることを心がけるっていうか、それはすごく希望があることだと思うし、芸術ってそういう面があるものだと思う。ここにいても、ここじゃない場所を見つめるのを忘れない、みたいなことなのかなって思いますね」

バンドのマッドチェスター感を抽出した“Angel, Here We Come”
――約1年前に、今回のアルバムにも再録版が収録されている“スクーター”がシングルとして出ましたよね。バンドとしての手応えが、あの曲にはあったんでしょうか?
Chamicot「そんなに華のある曲ではないけど、なんか良い曲だよね、という感じで出した記憶があります。すごくわかりやすくカッコいい曲、もっと派手な曲をシングルにすることもできたと思うんですけど、“スクーター”はそういう感じの曲ではない。肩の力の抜けた良い曲だし、こういうのもシングルにあるといいよねって。これ、いまもライブでやると楽しいよね」
毛利「そうだね。パッと見、派手じゃないけど、ちゃんと聴いてもらえればステレオガールならではのキラッと感もあるし、力強さもある。私は意外と元気が出る曲だと思うので、シングルカットしてよかったなと思っています」
Chamicot「いわゆる世間で言うところのエモい曲では絶対ないと思うんですけど、しんどいときに聴いても、すっと入ってくるものがあるんじゃないかな。“スクーター”という曲自体は感情を押し付けてこない曲なんですけど、聴いた人の気持ちを曲にふわっと乗せてくれて、それを溢れ出させてくる。そういう力のある曲ですね」
――アンサンブル的には、ギターのコンビネーションはストロークスっぽさもありつつ、ダンスミュージック感も増していて、バンドが『Pink Fog』のモードと違うところにいるんだなと感じました。
毛利「ストロークスっぽいって初めて言われました。ありがとうございます。音の分離感とかペナペナとした感じかな」
Chamicot「“スクーター”の音の構成とかは、ストロークスに近い面はあるかもしれないね」

――そのあとにリリースした“Angel, Here We Come”は、マッドチェスターというか、あの頃のダンサブルなギターロックという感じ。このへんはステレオガールの十八番な印象もありつつ、すごくカッコよくやってますよね。
毛利「そうね。これとかは特に、いままでのイメージとかを強調してる感じがあると思います。でもお家芸みたいになっちゃうと恥ずかしいな(笑)」
Chamicot「“Angel, Here We Come”は、『Pink Fog』から出てきていた、このバンドのマッドチェスターっぽさを一個にぎゅっとまとめたみたいな曲だと思います。でも、アルバムのなかには他の方向性に広がっている曲もある。今回はそういう広がりを持った良いアルバムなのかなと思いますね」
――確かに。マッドチェスター~セカンド・サマー・オブ・ラブ的な音楽って、ここ数年で再評価されているじゃないですか。
Chamicot「えっ、そうなんですか。私の耳には、それは入っていなかったです。そんなムーブがあったんですね」
――パーケイ・コーツというNYのバンドがいるんですけど、彼らの去年出したアルバム『Sympathy For Life』ではマッドチェスター的なギターロックに取り組んでいて。あとロードが去年出したアルバム『Solar Power』にはプライマル・スクリームの『Screamadelica』(91年)っぽいバイブスがあったりとか。でも、そのあたりの潮流をまったく意識してなかったというのは意外です。
Chamicot「全然耳に届いてなかった。ちょっとしっかりチェックします」
毛利「私自身は、妹の影響で去年はクラブミュージックとかをよく聴いていたんですけど、やっぱり、生ドラムと生ギターと生ベースで踊りたいという人は絶対いると思うんです。ダンスしたいという気持ちは、みんなのなかにあると思うし、バンドでそれをやれるっていうのは喜ばしきことかなと思いますね」

もっともっとダンスしたい
――ここ数年でダンスミュージックやダンスカルチャーに興味を持っている若いリスナーが増えた印象はあります。そのほかに『Pink Fog』以降に、おふたりが聴いていた音楽はどんなものがありますか?
毛利「私は去年、めっちゃフィッシュマンズを聴いてました。『映画:フィッシュマンズ』が公開されたタイミングというのもあったけど、もともとフィッシュマンズはすごい好き。私はAudio Activeとかドープなジャパダブも好きなんですけど、フィッシュマンズは〈日本語の歌〉としてもすごいですよね。私たちと全然アプローチは違うんですけど、彼らのバランス感を目標にしているかも」
――新作だと4曲目の“PARADISO”には、若干レゲエの要素が入っている気がしたんですよ。
Chamicot「そうですね。バンドとしても、ちょっとそういうノリがきてるかもしれない」
毛利「いま作っている曲のほうが、さらにそういう要素が出てきてるんじゃないかな」
Chamicot「“PARADISO”でそれを感じられるのは、Rikuちゃんのベースの動きかもしれないね。あの人も、昔からフィッシュマンズを好きだと言ってたもんね」
――“PARADISO”のドラムのスネアにもっとリバーブがかかっていたりしたら、めちゃくちゃレゲエっぽくなりそうだなと思いました。
Chamicot「誰かリミックスを作ってくれませんかね(笑)。パラデータは躊躇なく渡しますんで」
――ダンスミュージックのトラックメイカーの人には、90年代のマッドチェスターやレイヴのシーンから影響を受けた人が多いですし、そういう人たちが聴いても、この作品は何か響くものがあると思うんですよね。
Chamicot「ぜひ聴いてくれ」
毛利「聴いてほしい。私ももっともっとダンスしたいし、もっとそういうのを出していきたいなー。深読みしなくても、身体でわかってもらえるような音楽を作りたいです。ジャンル=オルタナティブダンスみたいな」
Chamicot「我々で新しいジャンルを作るのがいいよね(笑)」

1人でいたい5人がバンドをやっているのは……希望
――マンチェ感とはまた別に、ニューウェイブっぽい要素もアルバムにはあると思うんです。アルバムリリース直前にリードソングとして発表された“Split & Gravity”は、LCDサウンドシステムを彷彿とさせるようなスケール感の大きいエレクトロロックで。
毛利「それは恐れ多すぎます……(笑)」
Chamicot「私がもともとニューウェイブを好きなんで、そういう影響は出ているんでしょうね」
毛利「もう作品のテーマが〈宇宙〉だと決まっていたので、ギターの奏子にもこの曲では宇宙を意識した音作りをしてもらいました。もうね……ビューンって飛んでいく感じ」
――この曲での奏子さんのギターは、まさにロケットが宇宙をうねるように飛んでいくようなフレーズを弾いています。
毛利「そうなんです。わかってもらえてよかった」
Chamicot「この曲を聴いてると、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』の最後のほうに出てくるやばいシーンを思い出すんですよね」
――〈スターゲイト・シークエンス〉と言われている、あのいちばんサイケなシーン(笑)。
Chamicot「情報と時の流れに圧倒されてしまうような、あのシーンをなぜか思い出しますね。これも毛利が歌詞を書いたんですよ」
毛利「私が歌詞を書いたときは……ある彫刻が頭にありました。すごく大きな2人の像なんですけど、輪切りになっているんです。それらが近づいてキスしそうになるんですけど、輪切りがうまく設計されていて、彼らはすり抜けていくんですよ。そういうイメージがありましたね。
あと、もう一個キーワードになったのはGravity……重力。引力とか重力とか、見えない力としての欲望とか。自分がここにきた、ここまで連れてこられたり、いろんな出会いをもたらしてくれたりしたのは、すべて欲望のピュアな部分なんだっていう気持ちがあるんです。そういう力への感謝も入っています」

Chamicot「そういう、〈根源的な欲求に動かされて〉みたいな歌詞は、私からは絶対に出ないものなんです。私はどっちかっていうと死に近いところを曲に出してしまうところがあって。毛利は、生と死で分けるとしたら生のイメージを抱かせるようなものを書けるし、ステレオガールにとって新しい感じを出せているのがいいなと思いますね」
毛利「(作品を)そんなにコロナと結びつける気はないんですけど、やっぱり自分も周りの人も〈死にたくない〉という気持ちがあったと思うので。みんなからもらったイメージとして、今回は〈生きたい〉というのが出たのかもしれないですね。
奏子のギターリフのイメージからもらったところでもあるんですけど、イメージとか思考とか時間の流れとかが波みたいに向かってきて、それらが自分の周りを流れていく、というイメージがありました。この“Split & Gravity”は、〈そこで君はどうやって立つのか?〉みたいなことを質問している曲ですね。それ以上は聴いた人が勝手に考えて、という感じなんですけど」
Chamicot「すごく難しいことを考えてたんだね(笑)」
毛利「いやいや、たまたま難しく言っちゃっただけ(笑)。コロナ禍になって、〈こうすると大丈夫なんだ/大丈夫じゃないんだ〉とか〈これをやったら死ぬんだ/死なないんだ〉みたいな情報が溢れて、みんなが〈何が本当なんだ、誰を信じればいいんだ〉ということをすごく考えたと思うんですよ。そういったなかでも、ステレオガールはずっと1人であること、1人のままいろんな人とどう繋がるか、みたいなことを歌ってきたと思うんです。だから、この曲には情報やイメージがバーッと向かってくるなかで、自分はどう1人でいるか?みたいな気持ちが入ったんじゃないですかね」
――『Pink Fog』の頃からステレオガールは、一体化ではなく、自由をめざすと言っていましたもんね。
Chamicot「人と一緒に協調性を持って何かするっていうのが、基本的にできない人たちが集まってステレオガールになっているので(笑)。そういう人たちにとって居心地のよい音楽を目指すと自然とこうなるわなという」
毛利「人といるのは得意じゃないし、我が強いんだけど、〈私1人でやります〉という態度では意外と何もできなかったりする。1人で潰れる可能性っていうのは絶対あると思うし。だから、5人でバンドをやっているのは……希望ですね」

RELEASE INFORAMATION

リリース日:2022年2月16日
配信リンク:https://orcd.co/stereogirl
TRACKLIST
1. Intro
2. Angel, Here We Come
3. Breaking into the Space
4. PARADISO
5. スクーター
6. I Don’t(but someday)
7. Hey, Mr. Yellowman
8. Interlude
9. C. S. S.
10. Falling Falling
11. Spirit & Gravity
12. Everything’s Gonna Be High
LIVE INFORMATION
『Spirit & Opportunity』リリースワンマン企画
2022年4月3日(日)大阪・心斎橋 Live House Pangea
2022年4月22日(金)東京・渋谷 WWW