組曲『Gathering』で目指したのは〈各楽器を緻密に鳴らすこと〉

――新作『Gathering』制作のきっかけについて教えていただけますか。

「コロナをきっかけにニューヨークから帰国して、半年ほど札幌に戻っていましたが、やっぱり東京に拠点を移そうと思って、2020年11月に六本木アルフィーで一発目のリーダーライブをやったんです。そのときのピアニストだった宮川純くんがDays of Delightの平野(暁臣)さんを誘ってくれて、終演後に平野さんからいきなり〈一緒にアルバムを作ろうぜ!〉と声を掛けていただいたのが始まりです。初対面だったから、ただただビックリするばかりで(笑)」

『Gathering』トレーラー

――〈コードレス編成による組曲〉という、いまどきあまりにも硬派なアイデアが生まれた背景は?

「コロナ禍ということもあってバンドの人数を少なくしてほしいというライブハウス側からの要望もあり、コードレス編成で演奏することが増えてきました。

最初はベース、ドラムスとのトリオでしたが、オリジナル曲をやる時に、3人だと、どうしても自分の表現したい範囲に限りが出ることがわかりました。自分の頭に浮かんだ音を実際に出そうとすると、どうしても手の本数が足りない(笑)。もうひとつホーン楽器を入れようと考えて、約1年間かけていろんなメンバーと演奏したところ、西口(明宏)さんとは一番しっくりきたし、サウンド的にも面白いものができて、新作用の曲を作っていくうちに、自然と組曲形式にしたいと思うようになりました。コードレス編成でどのように組曲を作ってゆくか、どう配列していくかについては本当に考えましたね。ピアノのイントロで(楽章を)繋げるような、よくあるパターンもできないし」

――2サックスのコードレスカルテットというと、エルヴィン・ジョーンズの『Elvin Jones Live At The Lighthouse』(72年)や、チャールズ・オーエンスとジョエル・フラームの『Live At Smalls』(2017年)等がありますね。

「この編成で、なんとなく頭に残っていたのは、日本に帰る直前にNYのヴィレッジ・ヴァンガードで聴いたアントニオ・サンチェスのバンドです。ベースがスコット・コリー、サックスがクリス・ポッターとダニー・マッキャスリンでした」

アントニオ・サンチェス、スコット・コリー、クリス・ポッター、ダニー・マッキャスリンのカルテットのライブ動画

―― プログラミングも導入した前作『STORYTELLER』とは、ずいぶん対照的な印象を受けます。

「僕のなかでは、それほど違いはないんですよ。作曲する上でずっと大切にしているのは、その音を聴いたときに、何かしらの映像が頭に浮かぶこと。そこをなくしたくないとは、常々思っていますから。

今回の組曲を書いているときに特に考えたのは、各楽器を緻密に鳴らすことです。ひとつの演奏の中で、どの楽器のパートがメロディーになってもおかしくないような世界を目指しました」