インタビュー

金子三勇士『フロイデ』危機を乗り越え新時代を迎えようとする今、一番届けたい“歓喜の歌”を

今の時代だからこそ届けたいものを――真摯な想いに溢れた10周年記念盤

 6歳で単身ハンガリーに渡り、徹底した音楽教育を受けた金子三勇士。演奏活動はもちろん、FMの司会者としても、目覚ましい活躍を見せている。そんな彼が2021年にデビュー10周年を迎え、新譜『フロイデ』をリリース。ベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章を金子自身が編曲した表題曲の他、シューベルト=リスト“アヴェ・マリア”、モーツァルト=リストの“アヴェ・ヴェルム・コルプス”、さらに金子編曲によるバッハの“G線上のアリア”といった〈祈り〉を感じる楽曲が収められている。

 「いま、人類はコロナをはじめ様々な危機を乗り越えようとし、新しい時代を迎えようとしているというところです。このタイミングに私自身のデビュー10周年が重なり、皆様にどのような作品をお届けするべきなのか、非常に悩みました。そこで浮かんだのが“第九”の第4楽章だったのです」

金子三勇士 『フロイデ』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2022)

 様々なピアノのための名曲がある中で、あえてピアノ曲ではない作品を選んだというのは、幅広い知見をもつ金子ならではだろう。

 「コロナ禍でなければ浮かんでこなかったと思います。皆が生きることに必死な中で、音楽家が何を届けるべきかと考えたとき。そして今一番届けたいメロディを選んで、といわれたとき。それが“歓喜の歌”だったのです」

 金子による今回の編曲は、リストのピアノ独奏のための編曲をもとにしたものだという。

 「リストの編曲はベートーヴェンを敬愛するあまりにあらゆる音を拾いすぎており、聴こえるべきものが聴こえなくなってしまうということがありました。ただ、これは当時のピアノの性能や演奏環境の違いにも起因するものだと思います。そこで今回の編曲は、リストのアシスタントになったようなつもりで、彼の編曲を最大限に尊重しつつ、21世紀にあった響きを創り出すように行いました」

 金子の編曲は、楽曲の構造が明確に伝わり、ピアノならではの響きが最大に活かされた編曲となっている。ただし、これは金子のテクニックや歌心、音色の多彩さもあっての魅力であろう。他の収録曲もピアノならではの魅力を活かしながら、のびやかな演奏を聴かせてくれている。今回のディスクはデビュー10周年という節目を迎えた彼の一つの集大成と言えるものとなった。そのことを後押しするように、ディスクには〈ドイツ・グラモフォン〉のロゴが入っている。編曲という新たな試みも素晴らしいものとなった金子のこれからのさらなる進化が楽しみだ。

 


LIVE INFORMATION
第7回演奏会 交響楽団はやぶさ&金子三勇士

2022年5月5日(木・祝)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール
https://hayabusa-sym.com/index.html

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