キャリア25年を突破した最狂のディスコ・パンク・バンドが、サプライズ満載な傑作を携えて堂々の帰還!!! こんがらがったクソな時代だけど、いまは青きままに踊れ!!!
まずはアコギの弾き語りで送る“Normal People”での幕開けに驚かされた。こんな時代だけに彼らも……と思いきや、2曲目の“A Little Bit (More)”はよりミニマルな!!!節のダンス・ミュージックへ。この冒頭のサプライズについてフロントマンのニック・オファー(以下同)はこう説明する。
「もし気に入らなければスキップしやすいと思ったからね。あと、2曲目がもっとみんなが期待する!!!のサウンドっぽいから、“Normal People”でアルバムをスタートさせることで、〈今回のレコードではお決まりの!!!とは違うものが出てくるかもしれないぞ〉って仄めかしたかった。大きなサプライズを最初に持ってきて、他にもサプライズがあることを知らせたかったんだ。これまでよりも女性ヴォーカルがたくさんフィーチャーされているし、スペイン語の曲もあればパンク・ソングもある。そういう、これから現れるサプライズの兆候みたいな感じで“Normal People”を1曲目に持ってきたというわけ」。
その言葉通り、!!!のニュー・アルバム『Let It Be Blue』はアイデア豊かなタッチでこのバンドらしさをさらに増幅させている。前作『Wallop』をリリースしたのが2019年8月のこと。翌年からのパンデミック直前に始めたというアルバム制作は途中でオンラインに移行することを余儀なくされたが、そのことが『Let It Be Blue』の個性を形成した。
「俺たちは常に前作とかぶらないレコードを作ることを意識していて、そのために異なる制限を考えないといけなかったんだけど、今回はその制約が初めから設けられていたから楽だったよ。お互いリモートで作業するという制限が、レコードをユニークにしてくれるってね。実際にやってみるとすごくエキサイティングだった。例えば、俺が作ったものをラファエル(・コーエン)に送って、彼から返ってきた音源を開くと全然違うものになっていて、それに俺がまた手を加えてさらに変化したり。これまでと手法は違うけどクリエイティヴなコミュニケーションであることに変わりはなかったね。そうやって新しいものが出来ていくのは、興奮の連続だったよ。楽しかったから、パンデミックが終わってもこの方法は使い続けていくと思う」。
こうした発想の転換こそが、ダンス・パンクの雄という従来のイメージに止まらぬバンドのラディカルな姿勢を作品に投影しているのは言うまでもない。今回も馴染みのパトリック・フォードが共同プロデュースを担当。ミックスに関しては元メンバーのジャスティン・ヴァンダーヴォルゲンやスプーンのジム・イーノら複数の名前が曲ごとの色に沿って起用され、ゲストも含む女性ヴォーカルの存在感も相まって作中の彩りはさらに増した。ラファエルの歌声で穏やかに始まる“Storm Around The World”ではトラックの展開に伴ってマリア・ウーゾル(シンク・ヤ・ティース)の語りが効果を上げ、前のめりなビートの走る“Un Puente”ではアンジェリカ・ガルシアがエキゾチックな魅力を放つ。マリオ・アンドレオーニ作のブーミンなトラックを軸にしたエレクトロ・ホップ“Panama Canal”でクールにラップするのはメンバーのミー・ペースで、彼女はR.E.M.往年のヒットを意外なヒップ・ハウス調にリメイクした“Man On The Moon”でも活躍。ニューウェイヴ風味のマン・マシーンな終曲“This Is Pop 2”に至るまで、!!!流儀のポップネスがカラフルに押し寄せてくる。
なかでも印象的なのは、いま存在するブルーを受容しつつ、それもいつかは過ぎ去るものだと信じて、シンガロングでフロアの熱に昇華するような表題曲だ。そんな彼らは9月の〈Local Green Festival〉出演に続いて3年ぶりの単独公演も決定したばかり。期待を膨らませつつ、まずは『Let It Be Blue』を存分に楽しんでおこう。
左から、!!!の2019年作『Wallop』(Warp)、スプーンの2022年作『Lucifer On The Sofa』(Matador)、シンク・ヤ・ティースの2020年作『Two』(Hey Buffalo)、R.E.M.の92年作『Automatic For The People』(Warner Bros.)
LIVE INFORMATION
★来日公演特報!
Local Green Festival ’22
2022年9月3日(土)、9月4日(日)神奈川・横浜赤レンガ地区野外特設会場
単独公演
2022年9月5日(月)東京・渋谷 Spotify O-EAST