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『FANTASY CLUB』『RUN』を経た今『lost decade』を作るとしたら

――今回のアルバムは、“PEAK TIME”等でのフィールドレコーディングの音から徐々に楽曲に移行していく楽曲が、コロナ禍になった日常の中で音楽をもう一度取り戻そうとしているように聴こえました。そこから、自分たちが今生きているコロナ禍での日常の中で音楽を聴くこと、そこで音楽を作ること、さらには文化をいかに続けていくか、みたいなことを考えて作られた作品のように思ったのですが、いかがでしょうか?

「おっしゃる通りで(笑)。

今回、作っているときにマネージャーのスギオさん(杉生健)と相談したのは、メジャーデビューする前に出した『lost decade』(2013年)っぽいアルバムにしようということでした。当時のアルバムでやりたかったことをもうちょっと精度高くやろうっていうのが全体の裏テーマとしてあって、テクニカル的なテーマとしては『lost decade』の聴き味みたいなものを、『FANTASY CLUB』とか『RUN』(2018年)とかを経てから作るとしたら今どういうふうにやるのか、どうなるのかというのがあったんです。

『lost decade』って結局、一人で作った作品じゃないですか。あのアルバムには客演とか“水星”のような曲とかも入っているけど、外に向けたパワーというのはあんまり込めていないというか、自分の中にあるものを外部に出すためのアルバムだったと自分は思っていて。例えば“No.1”のように、最初は自分で歌っていたものを、より伝わりやすくするためにG.RINAさんに歌ってもらう、みたいな。そういう考え方でアルバムを作ることを、もう一回大人になってからやってみるという」

――あと音の感じが『TBEP』(2020年)以降硬質になっていて、それは制作環境の変化とかがあったりするんですか?

「そうですね。自分のスタジオができた後、『RUN』を出したあたりでスピーカーとかを新しく置いたというのもあって。あとコロナ禍でプロダクションに対する勉強時間が増えて、その成果がすごく活きたなと。

今回のアルバムってiPhoneで収録した音とかローファイな音もありつつ、全体としてはハイファイにまとまったなっていう印象が自分にはあるんです。マスタリングの力もあるとおもうんですけど、そういうところはシンプルに自分のテクニカルなサウンドデザイン力みたいなものが向上したなというのがありますね」

――音楽理論を勉強したことも日記に書いてましたね。今作の曲って、あまりループを主体にしたものではなくて、変化していったり、曲の構造も小節をまたいでいたりするので、すごくポップスぽくなったと思うんです。それは、そこに理由があったりするんでしょうか?

「それは完全にそうですね。コロナ禍の時に菊地成孔さんの〈ビュロー菊地チャンネル〉に加入して、ノートを付けながら音楽理論のコンテンツを全部見るっていうのをやりまして。

基本的には自分の手癖はそんなに変化しなかったんですけど、ちょっとした(コード)プログレッションとかが変わったりはしました。例えば“PEAK TIME”は最後キーが下がって終わるとか、“MIRROR”は一見普通の曲なんですけど、一回録った歌を半音下げて、それをメインの素材にしているとか。

『REFLECTION』収録曲“PEAK TIME”

今回のアルバムでは、そういうこととは別に〈不可逆性の高いことをしたい〉というのが全体的にあるんです。いつもアルバムを作ってるときは〈ぐるっと回って最初に戻って聴き返せる〉みたいなことを考えて作っていたんですけど、今回はわりと一直線に聴けるっていう。

一方でアルバムの曲の素材を他の曲でサンプリングして入れているのが多くて、一直線に聴けるからこそその中で同じ素材を二度使うというか、〈(アルバムの)中でぐるぐる回す〉というのも今回のテーマでした。“MIRROR”のアウトロと“OKay!”のメインのループは同じ素材なんですけど、場所が違うから違って聞こえるみたいなことが大事なのかなと思って。詳しくはアルバムのクレジットでどの曲にどれがサンプリングされているのかを見ていただければと。

特に今回は制作時間に余裕があったので、こういう細かいディテールを詰めることができたのが良かったですね」

――全体の流れを最初に想定するんじゃなくて、後から流れを組み立てていった感じでしょうか?

「去年“REFLECTION”という曲が完成して、アルバムのテーマが決まったんです。この曲自体が、ぐるっと回って自分のことが客観的に見られるようになって、それでまた対話を試みるみたいな曲じゃないですか。なので、それをゴールにして、難聴が発覚してからそれが治るまでのストーリーじゃないですけど、それまでのプロセスをアルバムにしようという感じで曲を置いていったので、曲順にしても結構入れ替えてますね。もともと“PEAKTIME”は1曲目にするつもりじゃなかったし、“MIRROR”は2018年にはできていて、でも当時アルバムには入れずに置いておいた曲だったり」

――最後に自分を客観的に見て達観するという流れって、『lost decade』っぽいですよね。自分は当時あのアルバムを聴いたときに、〈これから頑張るぞ〉って人がなんでこんなに達観してるんだ?って驚いた記憶があります。

「『lost decade』もそうですね。〈さとり〉というか。『lost decade』の曲は自分で聴き返しても、技術的にも内容的にもなんで当時の自分にこれができたのか謎っていう感じがしますね」