クラブミュージックはクラブに行かなくてもできることを思い出させてくれた若手たち
――でも自分からすると、10代の頃から活動していて、〈ネット世代の若手筆頭〉みたいな存在だったトーフくんが、気が付くと周りのアーティストが後輩ばかりになっているっていうのは隔世の感がありますね。
「メジャーデビューして10年弱ですからね。でも〈先輩をやると失敗する〉と占いで言われていて、あんまり若手に積極介入しないように努めてはいるんですけど。訊かれたことには答えるし仕事も振るけど、〈めっちゃ面倒を見る〉みたいなことはしないようにしようとは意識しているかもしれないです。やっぱり若い子はやりたいことをやるっていうのが大事だと思うので」
――逆に、後輩世代を見て考えたり影響を受けたりすることはありますか?
「NOAくんとかTelematic VisionsとかSASUKEくんとかと会って思ったのが、みんな本格的に音楽をやり始めたのがコロナ禍になってからなんですよね。〈もうクラブに行けない〉という中でも全然いいクラブミュージックを作っているのを見て、〈クラブミュージックはクラブに行かなくてもできる〉っていう気持ちを思い出させてくれたというか。今はクラブに行けるから〈現場で影響を受けてこういう音楽を作っているんだろうな〉と思うけど、自分もまだ若くて現場に行けるようになる前はそんな感じで、全然音楽を作っていたよなと。
今回のアルバムにはクラブミュージックっぽい曲は殆どないんですけど、〈クラブミュージックっぽい振る舞い〉っていうのは大切にしていて、若い子が〈クラブに行きたいのに行けない〉という中で作っている音楽を聴いて、これを逆境と思っているようじゃだめだなと痛感したんです。
以前、野外イベントに出演したときに、お客さんに〈tofubeatsを観るのに1年以上待ったよ〉って言われたんですよ。今までは全国でDJとかライブをやっていたわけですけど、〈この子らは自分のライブを観るために1年以上待たなあかんかったのか〉って、はっとしたんですよね。それで〈そういう世代よな、この子ら。コロナだなんだってグダグダ言っていないで、やることをやらなきゃな〉って思いましたね。
『lost decade』を作っていたときは、それこそもうクラブに行けるようにはなったけど入り浸っていたというわけでもなく、まだJ-Popとクラブミュージックの境目も曖昧だった頃なので、もう一回当時の気持ちで作ってみようっていうのが、若手を見ていて自分が一番思ったことですね」
今作の歌詞は〈矛盾がないか〉という問いをくぐり抜けたもの
――“SMILE”を初めて聴いたときに、同じ歌詞を繰り返すのを聴いてJ-Popに行ききらない塩梅が絶妙だなあと思ったんですが、作詞については以前と変化がありました?
「今回はテーマが固まっていて、時間があったので、ゆっくり寝かして歌詞が浮かんでくるのを待つ、みたいなペースで作りました。
やっぱり歌詞って難しくて。ここ1、2年で思うのが、埋められるところを全部歌詞で埋めてしまうことによって、無駄なことを言うことがままあるなって。自分がラップを難しいと思うのがそこで、16小節を2番まで使って言いたいことなんてあるのか?と。言いたいことがこれだけだったら、2番でそれを言い換えなくても、同じことを歌ったほうが伝わるんじゃないかと思いますし。
ECDさんとか小西(康陽)さんとかは思っていることを伝えることにためらいがないので同じことを何度でも言うんですけど、それが全然不快じゃないのは本当にそれを伝えたいっていうのがわかるからだと思うんですよ。
自分の場合は、作品において自己同一性みたいなものをすごく大切にしているというのもあって。ラッパーの人とかに自己矛盾があることは、おかしいじゃないですか。〈言いたいことはないんだけど、なんか言わなあかんから、ちょっと政治的なこととかアーティストっぽいことを言っとこう〉みたいな理由で歌詞を放り込んでないか?と疑いの目で見るようになってしまって、それで自分にも厳しくしないといけなくなってしまったっていうのはありますね。〈アーティストっぽく思われたい〉と思って、それっぽい言葉で逃げてしまうのって、実は簡単じゃないですか。でも天の邪鬼なので、それはしたくない。
そもそも自分がどう思っているかを深く考えるために音楽をやっているところがあるわけです。自分が毎回アルバムを出すときに制作日記も出すのは、〈作品と自分に齟齬がないですよ〉っていうことを証明するために出している側面もあります。今作の歌詞は特に〈そこの矛盾がないか〉という問いをくぐり抜けているものなので、そこの精密さはすごくあると思う。
言葉っていうのは言えば言うほど難しさが増していくので、なるだけシンプルにするっていうのがここ最近の回答なんです。うっかり気を抜いたら〈アー〉とか〈イェー〉とか言ったりしちゃいそうになりますし。一方で30万文字の制作日記の本を出すんですけど(笑)」
――制作日記は書籍化する前から読ませていただいていたんですけど、〈この人はすごく他人とネゴシエーションするな〉って思いましたね。〈音楽だけを自由に作れればそれでいい〉みたいな感じではなくて、一つ一つ納得して進めていくんだなと。
「不動産屋との交渉に、めちゃくちゃ紙幅を割いていますからね(笑)。あとは著作権の交渉とか、パソコンの修理の交渉とか」
――生活の一つ一つの変化とそれに対する感情がすごく書かれていて。まさかtofubeatsが飼っている犬のトレーニングで悪戦苦闘するなんて思わなかった(笑)。
「4年の間に2回も引っ越して、結婚して、難聴になって、犬を飼いだしていますからね(笑)」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2022年5月18日
特典:オリジナルステッカー
■初回限定盤(CD+ポストカード)
品番:WPCL-13374
価格:4,180円(税込)
人気イラストレーター・山根慶丈がこれまで描いてきたtofubeatsのアートワークを12枚のポストカードにまとめたスペシャルパッケージ
■通常盤
品番:WPCL-13375
価格:3,080円(税込)
TRACKLIST
1. Mirror
2. PEAK TIME
3. Let Me Be
4. Emotional Bias
5. SMILE
6. don’t like u feat. Neibiss
7. 恋とミサイル feat. UG Noodle
8. Afterimage
9. Solitaire
10. VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro
11. Not for you
12. CITY2CITY
13. SOMEBODY TORE MY P
14. Okay!
15. REFLECTION feat. 中村佳穂
16. Mirai
BOOK INFORMATION
発売日:2022年5月18日
ISBN:9784835646558
価格:1,870円円(税込)
タワーレコード特典:未発表音源 ”Mirror (1st demo 2019)” QRコード付きポストカード
コラム執筆:杉生健(CE$)/伊藤温美(ワーナーミュージック・ジャパン)/imdkm/in the blue shirt
編集:和久田善彦
ブックデザイン:小山直基
LIVE INFORMATION
tofubeats ”REFLECTION” online release party 2022.05.26

2022年 5月26日(木)
配信時間
開場/開演:20:30/21:00
出演:tofubeats/Neibiss/UG Noodle/Kotetsu Shoichiro/中村佳穂
VJ:杉山峻輔
Visual & Lighting:huez
PROFILE: tofubeats
90年生まれ、神戸出身。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生の時に国内最大のテクノイベント〈WIRE〉に史上最年少で出演する。その後、“水星 feat. オノマトペ大臣”がiTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得しメジャーデビュー。森高千里、KREVA、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボを行い注目を集め、4作のフルアルバムをリリース。近年は様々なアーティスト作品への客演参加やサウンドプロデュースだけにとどまらず、広告音楽、TVドラマや映画の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ、多方面で注目されている。2022年5月18日、ついに4年ぶりのフルアルバム『REFLECTION』をリリース。2月25日に急遽発表したデジタルシングル“REFLECTION feat. 中村佳穂”を皮切りに、3作連続で先行配信を行い、今年も精力的に活動予定。