©️Marco Borggreve

若き巨匠ヴァイオリニストが東京文化会館で2つの注目公演に出演!!

 2012年に難関エリザベート王妃国際コンクールで第2位入賞を果たして、今年でちょうど10年。今や世界的な若き巨匠ヴァイオリニストとして君臨する成田達輝が、〈音楽の殿堂〉東京文化会館で2つの注目公演に出演する。

 まずは、6月26日の歌劇「400歳のカストラート」への参加で、カウンターテナー・藤木大地が、主演・企画原案・選曲を兼務。今は存在しないカストラートの姿を通じて、バロックから現代までの音楽史を名曲で辿る壮大な音楽劇だ。脚本・演出は、一人芝居と人形劇を融合させた独自の作風で知られる平常。朗読を、大和田獏&美帆親子が務める豪華な陣容で贈る。また、今回は2020年の初演に続く再演。成田は、音楽監督およびピアノの加藤昌則率いるピアノ五重奏の一員として、前回に続く出演を果たす。

 「前回の終演後に僕は感動して泣いてしまい、毎年ずっと参加したいと訴えたので(笑)、再び出演できて本当に幸せです。藤木さんの華と牽引力は圧倒的で、ストーリーと音楽の境界線を平さんの演出と大和田さん親子の朗読が絶妙に繋いでゆく。音楽面では加藤さんと僕以外は全員、今回が初参加ですが、周防亮介君(ヴァイオリン)、東条慧さん(ヴィオラ)、上村文乃さん(チェロ)のいずれも気心知れた仲なので心強いです。演奏されるのは全24曲ですが、個人的に特に気に入っているのが、バーバー“アニュス・デイ”からマーラーの交響曲第6番の緩徐楽章を経て、木下牧子さんの“鷗”へと至る流れ。そこでは、主人公の藤木さんが太平洋戦争中に声を失った悲しみや苦しみを乗り越えて、終戦後の復興の中で声を取り戻してゆく様子が描かれていて、演奏するたびに喜びと感動を新たにしています」

 続いては、7月29日の〈響きの森〉Vol.50。〈傑出のブラームス〉と題された公演で、秋山和慶指揮・東京都交響楽団およびチェロの笹沼樹とブラームスの晩年の傑作として名高いヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲を演奏する。

 「チェロ協奏曲として着想されましたが、長年の友人だったにも関わらず、当時不仲だった大ヴァイオリニストと和解するために二重協奏曲として完成した本作。草稿が書かれたのが丁度135年前の7月で、不思議な縁を感じています。また、対立→ユニゾン→転調を経て和解へ、と至る長大な流れと、シンフォニックな響きは、晩年ならではの深い音楽。一音一音に普遍性が宿っていると思います」

 知性派かつ行動家の彼は、演奏以外でも研究熱心。過去には、ブラームスと繋がりのある文献を読んだり、さらには妻のピアニスト・萩原麻未が出演したブラームス公演で譜めくりを買って出たというから凄い。

 「親戚が高校の倫理教師だったこともあり、子供の頃から哲学と音楽の関係性を話し合うことが好きになって。ブラームス関連では、ドイツのライプニッツが空間を説明するために提唱した『モナドロジー』から大変示唆を得ました。また、譜めくりをしたのは、妻とヴァイオリニストのレオニダス・カヴァコスさんのデュオでしたが、彼はヴァイオリン1挺で様々な楽器の音色を出し、オーケストラの世界を描き出していて、心の底から感銘しました」

 今回は奇しくも、チェロの笹沼も同じ名前で〈タツキ〉。ダブル・タツキによる共演が実現する。

 「東京文化会館さんのご配慮かどうかはわかりませんけれど(笑)。彼と知り合って2~3年になりますが、年齢差を越えた分け隔てのない付き合いをさせてもらっていて、どんな音楽でも一緒に楽しめるのが嬉しいですね。また、音楽以外の様々な分野に造詣が深いことも尊敬しています」

 そして、今回の指揮者・秋山に、成田は全幅の信頼を寄せている。

 「かつて九州交響楽団とシベリウスの協奏曲を共演した際の指揮者が秋山先生でした。その流麗で充実した音楽作りが本当にすばらしくて。今回も何の心配もなく、大船に乗ったつもりで演奏に臨めます」

 


成田達輝(Tatsuki Narita)
第5回東京音楽コンクール弦楽部門第1位及び聴衆賞。
2010年ロン=ティボー国際コンクール第2位、2012年エリザベート国際コンクール第2位及びイザイ賞を受賞。これまでに、ペトル・アルトリヒテル、オーギュスタン・デュメイ、ピエタリ・インキネンほか国内の指揮者、オーケストラと共演し高い評価を得るとともに、室内楽奏者としても活動を広げる注目の若手ヴァイオリニスト。現代の作曲家とのコラボも多い。使用楽器は、ストラディヴァリウス1711年製〈Tartini〉(宗次コレクションより貸与)。

 


LIVE INFORMATION

歌劇『400歳のカストラート』
2022年6月26日(日)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:15:00
2022年7月3日 (日)愛媛 西条市総合文化会館 大ホール
開演:13:00
2022年7月10日(日)三重 四日市市文化会館 第一ホール
開演:14:00

企画原案・選曲・カウンターテナー:藤木大地
脚本・演出・美術:平常
音楽監督・作曲・編曲・ピアノ:加藤昌則
朗読:大和田獏/大和田美帆
ヴァイオリン:成田達輝/周防亮介
ヴィオラ:東条慧
チェロ:上村文乃

https://www.t-bunka.jp/stage/14257/

《響の森》Vol.50「傑出のブラームス」
2022年7月29日(金)東京・上野 東京文化会館 大ホール
開場/開演:18:15/19:00
指揮:秋山和慶
ヴァイオリン:成田達輝
チェロ:笹沼樹
演奏:東京都交響楽団

■曲目
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 Op.102/交響曲第1番 ハ短調 Op.68

https://www.t-bunka.jp/stage/14314/