音質にこだわり、英国新世代ジャズ・シーンのみならず、アメリカ、日本の若手発掘も! 今注目すべきレーベル
ギアボックス・レーベルから、ビンカー・ゴールディングの2ndアルバム『Dream Like A Dogwood Wild Boy』がリリースされる。まずは本作に触れる前にこのギアボックス・レーベルから紹介したほうが、作品への理解度が高まるだろう。
主宰するダレル・シャインマンは金融業界から転身した変わり種。ある程度の資金が溜まった段階で、自分が本当に好きだった音楽業界に身を投じると、大英博物館に収蔵されている膨大なアーカイブから良質な音源を発掘。ビバップからリリースを始め、近年ではアメリカ、日本でも(2年前日本支社を設立)有望なアーティストの発掘も行うなど、その範囲を広げている。
このレーベルが他と異なるのは徹底した音質の追求である。ミックス・マスタリングにこだわり、それを最良の形で届けるべくアナログ盤をリリースしている。またジャズだけにこだわらずアメリカではフォーク/アメリカーナという根底にブルーズ、ロックを感じる音源もリリースしている。これは新たなファン層を獲得するべく現代の音楽シーンにおいて重要なファクターとなる〈リズム〉を大切にした姿勢の顕れだ。本人曰く「リズムという概念が、若い世代には非常に重要だ。(他よりリリースされている)多くはビート主導の音楽で、オーディエンスも若い。」という言葉からも伺い知れる。
さて本作を紹介しよう。英において名だたるジャズ・アワードを総なめにした〈ビンカー・アンド・モーゼス〉のサックス奏者ビンカー・ゴールディング。参加ミュージシャンは英ジャズシーンの最重要女性ピアニスト、サラ・タンディ、ブルース・カントリーギターの名手ビリー・アダムソン、ベーシストはダニエル・カシミール、ドラマはサム・ジョーンズという顔ぶれ。
その音源を聴いてまず感じるのが、ジャズという概念はすでにここまで来たかという驚きである。冒頭の1分以上流れるスライド・ギターを聞けばそれはブルース・アルバム以外の何物でもない。しかし曲が進むにつれその違和感が気持ちよく氷解していく。様々なジャンルを包含しつつもジャズというフォーマットに無意識のうちに溶け込んでいく。その特徴がよく現れているのが、4曲目“Howling And Drinking In God’s Own Country”。ニューオーリンズテイストのセカンドラインから展開する4ビートは秀逸! 本作はこのアメリカン・ルーツミュージックの香りをうまく取り込んでおり、難解になり過ぎず、かと言って物足りなさは全く無いボーダーレスな作品に仕上がっている。このあたりは前述のレーベル・オーナーのダレルの嗜好や言葉が思い出される。新しい才能に自らの嗜好も折り込みつつ、またリズミックなアプローチにも見事成功している。
そしてこの音源の音質は間違いなく現代においては最上と言える品質だ。ぜひ解像度の高いサウンドシステムで爆音で聞いて欲しい。オーディオセッティングのリファレンスにもなりうる音だと思う。うちの安いオーディオでもこれだけ良い音がするのだから。