
プリンスは何をやってもプリンス
――岡村靖幸から影響を受けて、プリンスの音楽はいつ頃から聴き始めたのでしょう?
「聴き始めたタイミングは定かじゃないですが、プリンス自体は岡村ちゃんより前に知っていて。BREIMENってセッションを通して繋がったバンドなのですが、高校卒業後、ベースを始めてちょっと経った頃から、都内のセッションでマイケル・ジャクソンやハービー・ハンコック、ミーターズの曲をやったりする中でプリンスを知りました。マイケル・ジャクソンと同じように(黒人音楽を)ポップミュージックに昇華した人で、与えた影響も大きいから、セッション以外で何かの音楽に触れた時にも名前が出てくる。避けようにも避けられない存在です」
――セッションではプリンスのどの曲をやっていたのですか?
「“I Wanna Be Your Lover”はやってたかな。
シンガーがいるセッションの場合、マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーをやることが多いけど、プリンスは意外とやる人が少ない。それは、単純に難しいからなんじゃないかと。たとえば、サックスでプリンスの曲のメロディーを取るのは、フェイクも多いし、難しい気がする」
――純粋にリスナーとしての好きなプリンスの曲やアルバムは?
「単曲だと“Purple Rain”は聴いていたし、アルバムの『Controversy』(81年)も聴いていましたが、すごくハマったのが、最近のやつですが、2015年の『Hit N Run Phase Two』。“Stare”って曲のベースがめちゃくちゃカッコよくて、よく聴いてました」
――『Hit N Run Phase Two』は結果的に遺作(プリンスは2016年4月21日に他界)となったアルバムですね。配信が2015年12月だから、高木さんは当時20歳。そう思って調べてみたところ、高木さんは95年2月20日生まれで、その頃のプリンスといえば、ちょうどプリンスという名前を一旦葬って、ラブ・シンボルと呼ばれる記号あのシンボルマークを使い出した使っていた頃なんですよね。〈The Artist Formerly Known As Prince(かつてプリンスとして知られたアーティスト)〉などとも呼ばれていましたが、プリンスが名前を葬り去ったのと入れ替わるように高木さんが生まれた。で、そのシンボルマークで初めて出したアルバムが、奇しくもこの6月に再発される『The Gold Experience』(95年9月リリース)だったりします。
「俺が生まれる時点でそれなりの数のアルバムを出してたんですよね。マイケル・ジャクソンのアルバムは全部聴いてたんですが、実はプリンスってそんなに網羅的には聴いてなくて。曲もアルバムも多すぎて、最初はどこから聴けばいいかわからない状態でした。親の影響で聴いていたとかもなかったので。
プリンスの音楽って、ファンク、ロック、ブルースとか幅がめちゃくちゃ広いのに、何をやってもプリンスでしかないというものだと思うんです。だからもう、自分は影響を受けたというより憧れですね」
――プリンスとマイケル・ジャクソンは80年代に一世を風靡した黒人のポップスターとして比較されることが多くて、ミュージシャンの間でも、プリンスは楽器をやる人、マイケルはボーカリストが憧れるというイメージがあります。そう思うと、高木さんはベースを弾いて歌うから、プリンスもマイケルも同等の存在かと。
「そうですね。マイケルはマイケルで大好きですが、プリンスの場合は楽器を始めてから好きになっていく音楽という気がします。プリンスが楽器をやるから良いというわけではないですが。
でも、プリンスのライブ映像をちゃんと観たのは、実は今回の『ライヴ 1985』が初めてだったんです。今までは曲だけを聴いて細かいアレンジとかフレーズに注目していたけど、これからは存在としてのプリンスにハマりそうな気がします」
〈全部盛り〉のライブ、フルテンの五角形グラフ
――では、その『ライヴ 1985』をご覧になった感想を率直にお聞かせください。
「第一印象としては、めちゃくちゃ面白かった。単純にinterestingな面白さと、funnyに近い面白さ。
あそこまで演出に凝ったショーでありながら、生演奏のフィジカルな部分が保たれていて、それらが同時進行していく。あれだけの熱量でライブをやってる人って、なかなかいないと思います。
ライブって(スタジオ録音の)アルバムとは違って曲ごとに差をつけるのが難しいのですが、プリンスのライブは、あの演出もあって一曲ごとに引き込まれる感じで」
――ライブの躍動感や生々しさがありながら、細密に計算されたステージですよね。
「例えばレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のライブって基本的に演出がなくて、その場限りのステージって感じですが、プリンスにはショー的な側面がある。
そうしたライブをやるのは結構大変なんですが、このライブは全部ハイライトというか、〈全部盛り〉みたいな(笑)。演奏面と演出面、両方がフルパワーなのって珍しい。すごすぎて面白かったですね」
――ライブ当時(85年3月30日)のプリンスは26歳で、高木さんは今年27歳。プリンスが今の高木さんと同じ年齢の頃に、ああいうライブをやっていたことについては?
「もう意味わかんないなと思いましたね(笑)。26かぁと思ったけど、26かぁとも思わないというか……。そもそも年齢は関係ないと思ってますけど、スターだし、貫禄ありますよね。スター性って、生まれつきそういう人と後からそうなった人がいますが、プリンスはずっとスターだったんだなと。人じゃない、でもロボットでもない……いや、もうわかんない(笑)」
――超人というか、ロボット的なクールさと人間らしさが同居している。
「プリンスって、五角形グラフがあったら、ミュージシャンとしてはほとんどフルテン(満点)だと思うんですよ。実は人としてメチャクチャなところがあったのかもしれないけど、フルテンすぎてよくわからない(笑)。量産型で曲を作り続ける職人というか、でも毎回実験的なところがあるし、そうやって曲を作るのに特化したミュージシャンかと思ったらライブではスター性があるし。フルキャパであれだけ動いていたら数時間しか寝ないっていう伝説もわかるけど、俺はたくさん寝たいです(笑)。衝動的に曲を作る人って、実はそんなにリリースのペースが速くないのに、プリンスは速いっていうのもすごいですね。プリンスは常に(『ドラゴンボール』の)〈精神と時の部屋〉にいる気がします」
――レヴォリューションというバンドについてはどう思いました? 性別や人種を超えた、スライ&ザ・ファミリー・ストーンなどにも通じる混成具合ですが。
「本当に全員の衣装も性別とか関係ない感じですよね。現代から見ているので違和感なかったです。アース・ウィンド&ファイアのようなファンクと宇宙みたいな世界もありますが、そこらへんも誇張しないで、そういう意味での狙った感じもなく、自然ですよね」
――会場は真っ暗で、深夜にプリンスのベッドルームに招き入れられた感じと言いますか、マイクを舐めたり、ピアノの上で腰をくねらせたり……かなりエロティックな演出です。
「解放してるんだな、と(笑)。超越していて、見た目はそれほど違和感なかったですが……エロいなって思いました」