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〈何でもアリ〉の混沌の時代の申し子

上で述べたようにブラック・ミディの前者から後者に至る流れは、シーンの文脈を大きく逸脱するものだ。しかしながらこのような音楽性の変遷を単なる70年代の懐古趣味と片付けることはできない。むしろ彼らの現代的な特質は、過去の意匠を脱文脈的に今日に接続する姿勢にこそある。どういうことか。

ブラック・ミディの現メンバーは全員2000年以降の生まれだ。NapsterからSpotifyまで。情報技術の進展に伴う音楽の生産/流通/消費のあり方の劇的な変化の後に物心の付いた世代。楽曲の商品価値が大きく切り下げられ、その気になれば月額10ポンド弱でストリーミング契約を結んだり、YouTubeで違法動画をタダで楽しめたりできる、そんな時代を彼らは当たり前に生きてきた。

アクセシビリティーの劇的な向上は、大半の人間にとっては単なる利便化に過ぎない。だが、好事家精神を持ち合わせた一部の人間にとっては違う。検索はさらなる検索を呼び込み、文脈の探求は加速していく。経路依存的に嗜向は分岐し、SNSを通じたコミュニティー形成がさらにそれを強化する。インターネットという触媒はリスナーの能動性に大きく反応し、その可能性を無数のパターンとして開花させる。

このような時代に従来の音楽メディアの役割は相対的に縮小する。もはや特定の書き手による文脈形成はこの種のリスナーにとって唯一の情報源ではないからだ。そしてメディアのコントロールを離れた好事家たちのネットワークは、支配的な文脈を持たない〈何でもアリ〉のカオスへと突入していく。

ブラック・ミディはまさしくそんな混沌の時代の申し子に他ならない。

 

異臭と威厳で圧倒する崇高美

〈何でもアリ〉の脱文脈化が進む現代において、音楽はメディア主導で形作られた明確な価値基準を見失い、大海を漂う漂流物のようなものになりつつある。それを生かすも殺すも作り手次第だが、どうやら彼らはうまくやったように思える。セカンド『Cavalcade』で試みられたキング・クリムゾンとスコット・ウォーカーの接合は、サード『Hellfire』においてアヴァンプログの喧しさとフォークロックの静謐さとチェンバーポップの大仰さの三つ巴構造へとさらに複雑化した。かつてアーケイド・ファイアやヴァンパイア・ウィークエンドといったインディーロックの先達が到達した崇高美に、ブラック・ミディは全く異なる道筋で辿り着いた。彼らの果てしなく高層化する漂流物の城は、今やひたすらに異臭と威厳で周囲を圧倒するばかりである。

『Hellfire』収録曲“Eat Men Eat”

 


RELEASE INFORMATION

BLACK MIDI 『Hellfire』 Rough Trade/BEAT(2022)

  • TOWER RECORDS ONLINEで購入

リリース日:2022年7月15日

■国内盤CD
品番:RT0321CDJP
価格:2,420円(税込)
解説書・歌詞対訳封入

■国内盤1CD+Tシャツ付き
品番:RT0342MRJP
サイズ:S・M・L・XL
価格:6,820円(税込)

■輸入盤LP(限定レッド/初回限定日本語帯付仕様)
品番:RT0321LPE
価格:3,190円(税込)

■輸入盤LP(初回限定日本語帯付仕様)
品番:RT0321LP
価格:3,190円(税込)

TRACKLISTING
1. Hellfire 
2. Sugar/Tzu
3. Eat Men Eat
4. Welcome To Hell
5. Still
6. The Race Is About To Begin
7. Dangerous Liaisons
8. The Defence 
9. 27 Questions
10. Sugar/Tzu (Live at Electrical Audio, Recorded by Steve Albini) *Bonus Track for Japan
11. Still (Live at Electrical Audio,Recorded by Steve Albini) *Bonus Track for Japan

 

LIVE INFORMATION
black midi JAPAN TOUR 新日程

2022年12月4日(日)東京・渋谷 Spotify O-EAST(1st SHOW/2nd SHOW)
2022年12月5日(月)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2022年12月6日(火)愛知・名古屋 ボトムライン
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891