挑戦的なニューシングル『うらぎりもの/しるし』をリリースしたばかりのRYUTist。待望のニューアルバム『(エン)』を2022年11月22日(火)にリリースすることも発表しました。さらに、新潟生まれのバーチャルシンガー〈越後屋ときな〉とコラボした“青空シグナル”のリリースや、ライブハウスツアーの開催など、最近はうれしいニュースが盛りだくさん。そんなRYUTistの宇野友恵さんによる、本の紹介連載〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉。今回の一冊は、シンガーソングライター・前野健太さんのエッセイ集「百年後」です。そして、8月に惜しくも閉店した、友恵さんにとって大切なお店、北書店の思い出についても綴ってくれました。 *Mikiki編集部
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ちょうど1ヶ月前のことでした。
ぼんやりスマホを眺めていたら北書店が8月末で閉店とのお知らせが。
3月に脳出血で倒れて7月の退院から早くも1ヶ月が過ぎて、そろそろ今後のことをお知らせしなきゃなんですが、とりあえずここは今月いっぱいで閉店することにします。残念だけどそうします。なんか、ホントに閉めるのかなーと他人事みたいにぼんやり考えていたら残りひと月を切ったのでお知らせです。
— 北書店 (@kitashoten) August 6, 2022
この連載でも度々お世話になっていた新潟市の北書店さん。
脳出血で倒れて入院していた佐藤雄一店長が無事に復帰されて安心していたところに閉店のお知らせだったのでだいぶ混乱しました。
お知らせの直後に北書店で開催された前野健太さんのライブ終わり、夜に煌々と光る北書店の看板がふと目にはいりました。
〈にいがた まち くらし ほん〉。
この文字の並びに佐藤店長らしさがものすごく詰まっているなぁとしみじみ感じていました。
〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉第14回目はシンガーソングライター・前野健太さんのエッセイ「百年後」とともに北書店のお話をさせてください。
前野健太さんとの出会いも佐藤店長がきっかけで、「百年後」の発売直後、2017年でした。
旅をして、本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて。
日常をさらけ出し、歌にして、暮らしていく。
前野さんの生き方は、あの看板の文字に通じるところがあります。
佐藤店長もまたそのような方々が好きで、イベントを企画していたのだなと共通点に気がつきました。
以前は少し難しく感じていた「百年後」ですが、今再読したらスンと馴染んだので、この違いには驚きでした。
私もいつの間にか新潟の町や人に愛着を持つようになっていました。
ごはん屋さんや喫茶店に進んで足を運び、町を楽しむようになったのは佐藤店長の影響です。何もなかった私を豊かに変えてくれた北書店という存在がなくなることは私にとってとんでもない一大事なんじゃないかと急に実感しはじめました。
北書店との出会いは、8年前。
高校一年生の頃、入学した学校の近くにあったことからマネージャーさんに〈いい本屋さんだよ〉と教えていただき、本に全く興味がなかったけれど、緊張しながら足を踏み入れたのが最初でした。
それから少し時が経って、RYUTistで〈柳書店〉というイベントを北書店で夏と冬にやらせていただくようになり、高校を卒業してから佐藤店長におすすめしてもらった角田光代さんの「さがしもの」をきっかけに本を好きになっていきました。
北書店に行って本を買い、佐藤店長と他愛のないことを話し、ご飯を食べ、毎日のように入り浸っていた時もありました。一日店員をしたり、個人的に古本を売ってお小遣い稼ぎをしたり。朝方まで盛り上がったおでんパーティーも忘れられません。
面白い本や人に出会い、自分の世界がどんどん広がっていくのが嬉しかったです。
ここで過ごした日々が今の私を形作ってくれました。
北書店の思い出を振り返ったら、涙が止まらなくなりました。
それは親離れのような、人生の分岐点でもあるような、大きな寂しさでした。
あの店がなくなってしまった、街が変わってしまった、と僕はよく嘆きます。でも、なんだか今日はちがいます。大地を意識させる音楽が、この地のかなしみを汲み取ろうとする歌があれば、大丈夫だ、と。
「百年後」を再び開いて読んだ時、ふっと力が抜けて、とてつもない寂しさでいっぱいだった心を励ましてくれました。
そっと見守るような気持ちで8月31日までの時間を過ごしました。
最後の1週間は特に、北書店の最後を見届けたいという人たちが次々に訪れ、私もちょっと奮発して本をいっぱい買ったり、トークに参加させていただいたりして。
みんながそれぞれの思い出を浮かべて、惜しんでいるようでした。