荒井由実として音楽シーンに登場してから早半世紀。松任谷由実さんのデビューから50周年を記念して、『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』がリリースされました。

発売後、タワーレコードでは売り切れが続出するなど、2022年を代表するヒット作になっている本作。民放ラジオ99局の企画でリスナーからリクエスト曲とエピソードを募集、ラジオのスタッフやユーミン自身も参加して厳選された50曲と、AIを駆使した〈松任谷由実 with 荒井由実〉名義の驚きの新曲“Call me back”が収録されています。リスナーひとりひとりの人生に寄り添ってきたユーミンらしく、ファンから寄せられた各曲にまつわるエピソードもブックレットに掲載されており、ファンとともに作り上げられた作品と言っていいでしょう。

そこで今回は、ユーミンファンのタワレコスタッフたちが、〈ユーミンと私〉をテーマにコメントを寄せました(写真はリリース日の渋谷店の展開です。現在も同じ展開がされているとは限りません。ご了承ください)。 *Mikiki編集部

松任谷由実 『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』 ユニバーサル(2022)

 

私とユーミンと八王子
村越辰哉(新宿店)

ユーミンの実家は八王子の老舗、荒井呉服店なのはよく知られています。私が八王子のタワーレコードに勤務していた当時、ユーミンがお買い物に来られたことがありました。記憶に残っているのは声。クレジットのお支払回数を伺った返答、「一回」(もしくは「一括」だったかな……)そのたった一言がまぎれもなくあの〈ユーミンのお声〉だったことが今でも強烈に記憶に残っております。恐らく96年のことです。

96年といえば、荒井由実がライブで復活した年。ライブCD映像作品に収録された“中央フリーウェイ”は歌唱・演奏の素晴らしさもさることながら、個人的には〈八王子店でのユーミン〉の記憶と相まって思い入れが深いバージョンです。

96年のライブアルバム『Yumi Arai The Concert with old Friends』収録曲“中央フリーウェイ”

そしてデビュー50周年の2022年。ベストアルバム『ユーミン万歳!』は多くの音楽ファンが手に取っていると思いますが、書籍「すべてのことはメッセージ 小説ユーミン」もオススメです。少女・荒井由実のデビューまでの軌跡を綴ったノンフィクションノベル。単なるサクセスストーリー的伝記ではなく、荒井呉服店を通じて描かれる戦後日本の庶民の生活の変遷、日本ポップカルチャー史を体現しているユーミンの音楽体験が重層的に描かれまさに〈八王子の由実ちゃん〉が〈ユーミン〉になる、その時間を共にしているかのような小説なのです。

 

田中 学(新宿店)

スキーもサーフィンもしない(できない)自分にとって、ユーミンとはやっぱり荒井時代なのである。ごめんなさい!

キャラメル・ママ(ティン・パン・アレー)のファンキーでアーシーな演奏にのせて歌うユーミンは、まるで若くして夭逝した”ひこうき雲”の主人公のように永遠に色あせない。

もともとアルファレコードの専属ソングライターとしてデビューしたユーミン。その駆け出し時代はコーラスグループのハイ・ファイ・セットに数多くの名曲を提供している

”卒業写真”、”中央フリーウェイ”、”冷たい雨”、”雨のステイション”、”朝陽の中で微笑んで”、それらの多くはハイ・ファイ・セットの楽曲としてリリースされ、のちにセルフカバーというカタチでユーミンのアルバムに収録された。

ハイ・ファイ・セットの75年作『卒業写真』収録曲“卒業写真”

個人的にはそのハイ・ファイ・セットのリードボーカルである山本潤子さん、彼女は日本の女性歌手のなかでも間違いなく五指に入るボーカリスト。その彼女が歌うユーミン楽曲もこれまた最高なので未聴の方はぜひ聴いてみて欲しい。

ところで皆様、先日リリースされたばかりの『ユーミン万歳!ベスト』をご愛聴かと思われますが、実はシレっとレアなシングル曲が収録されているのはお気づきになられました?

それが”潮風にちぎれて”と”消灯飛行”の2曲。ベストアルバムに収録されたのが初めてなのはモチロン、ほぼ初CD化(過去に短冊シングル化)というこの曲たち。

『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』収録曲”潮風にちぎれて””消灯飛行”

ユーミンにとって初の松任谷名義で77年にリリースされた8枚目のシングル曲のA/B面となるこの2曲は、結婚記念として当時リリースされた初期ベスト『ALBUM』に収録されたものの、諸般の事情により未CD化。

最近ではアナログレコードでしか聴くことのできなかったこの2曲がまた素晴らしいのです! とくに荒井時代のユーミンを愛する方なら思わずこぶしを握り締めてしまうコト間違いなしの隠れた名曲。

ちなみにその次のシングル曲”遠い旅路””ナビゲイター”の2曲もCD化キボンヌ、です!

そして『ユーミン万歳!ベスト』に収録された唯一の新曲”Call me back”ですが、すでに知られるようにこれはアイドル歌手・白石まるみに提供した楽曲”恋人がいても”をリテイクしたもの。

この白石まるみバージョンも、彼女のはかないボーカルやクロスオーバーなサウンドが絶品な一曲なので、こちらも未聴の方は是非!

白石まるみの82年作『風のスクリーン』収録曲“恋人がいても”