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本物以上にリアルな日常を非日常なステージで演じている

――そして〈気持ち悪さ〉以外に、今作に通底しているのは〈喪失感〉かなと。“ぼくたちは失敗”、あるいは“キリスト・ロック”もそうですが、ほかにも“君とは結婚すると思ってたんだ”もですね。これは大変ベタな質問で恐縮ですが、“君とは結婚すると思ってたんだ”は、私小説的なものと捉えてよいのでしょうか?

「私小説的なものだと捉えていただいていいかなー。まあ、僕はインタビューでは嘘しか言わないので。はははは」

――そうやって、はぐらかされることはある程度予想していました。

「歌詞というものは、数十行の言葉にもかかわらず、エッセイやコラム、SNSとか、そういったもの以上に自分の無意識下にある心情を突き刺すような言葉で描いてしまうところがあるなと思っていて。

僕は歌詞では本当のことを言いたいというか、歌詞でこそ、それが嘘のことを書いていても、嘘の嘘……つまり真実を書きたいと思っています。今回のアルバムは、特にその側面が強くなってきたかな。

自分自身が年齢を重ねるごとに、どんどん等身大である一方でフィクショナルなところに足を取られ始めているというか。自分は40歳の中年なんだけれども、その一方で非常に現実のおじさんとはちがうところに足を踏み入れている気もするんですよね(笑)。でもそれは、〈ミュージシャンの松永天馬〉というペルソナを被っているから成り立っているところもあるかもしれなくて。

松永天馬を演じているんだけれども、演じている松永天馬でリアルな肉体をロールしているというか、リアルな、本物の、日常の松永天馬以上に、リアルな日常を非日常なステージの上で演じている、というところはあるのかな。だからある意味、自分のパーソナルな側面が見えているかもしれないし、パーソナルな側面がより演技過剰に語られているかもしれない」

 

中年男性も鏡の前に立ってほしい

――普段より輪をかけて饒舌になっていらっしゃる……。ちなみに、ソロワークを始めて数年経ちますが、同年代の男性の方から感想や反響が来ることはあるでしょうか。

「いや、それがね、来ないんですよね……(笑)」

――そもそものファン層の問題なのか、あるいは中年男性は、同じ中年男性の自己開示的な表現を求めていないのでしょうか。

「結局のところ、物理的な意味でも抽象的な意味でも、中年男性は鏡を見ることができないんですよ。自分の有り様を見つめることができない。これが中年女性だったら、それに対して美容意識などで〈じゃあ、ここを直したらいいんじゃないか〉とか、〈ここをケアしたらいいんじゃないか〉とか、〈こういう化粧をしたらいいんじゃないか〉とか、〈こういう髪型にしたら〉という判断ができる人は多いと思うんです。一方で、中年男性の場合はそれを見ないようにしている」

――無意識なのか意識的なのか。どちらにせよ、どうしてなのでしょうね。

「自分は(主に女性を)消費はしたいけども、消費されたくない。自分は鏡を見たくないし、カメラの前には映りたくない……っていう、戸惑いのようなものがあるのかもしれないですよね。

ただ、僕自身は、カメラの前、鏡の前に立ってほしいし、そういう人たちにこそ僕の曲を聴いてほしいのですけどね」

――届くといいですね。

「そうだ、最近面白かったことがあって。若い男の子のファン何人かから、〈天馬さんはすごく自由に生きてて素敵だなー〉と言われたんです」

――それは松永さんにとって、かなり新鮮な出来事だったのでしょうか。

「はい。そう言われてみると、〈事務所の方針で〉とか、〈大人に言われて〉みたいなことを考えたことが、この稼業を始めてからほぼないんですけど、それは別に事務所も強くないし、そう言われるような大きな立場にある大人もいないからなんですけどね(笑)。だから、本当にそれで言うと、自分は作りたいものをずっと作ってきただけで……」

――それは、冒頭におっしゃっていた〈句読点がない〉からこそ、自由であれるのかもしれませんし。

「そうですね。モラトリアム中年だからこそ描き続けることができるのかもしれない。そういう意味で、男性が年齢を重ねていくにあたり、自分を解放していく一つのモデルケースとして聴いていただけたら嬉しいですね」

 

〈オジ割〉をください

――まとまりました(笑)。そして、リリースツアー〈不惑誘惑ツアー〉や、リリースイベント〈不惑迷惑カラオケツアー〉も控えています。

「不惑は迷惑である、だからこそ同時に誘惑したいという気持ちがありますね。昨年から今年にかけて行っていた、47都道府県ツアー〈四十七人のの松永天馬〉はギタリストとのアコースティックツアーだったんですけど、〈不惑誘惑ツアー〉はひさしぶりにバンドセットのツアーとなっておりますので、ぜひとも不惑の男に誘惑されにおいでください」

――老若男女問わず。

「はい、老若男女問わず! 男性大歓迎! そうだ、〈男性割〉があればいいのかな!? 〈40歳以上の男性は1,000円で観れます!〉というのはどうだろう? 別に40代だからといって、お金を持ってるわけではない時代ですし。そうだ…… 〈オジ割〉だ!  〈オジ割〉をやろう!」

――女性割や学割ではなく、 〈オジ割〉は新しいかもしれませんね。

「〈オジ割〉はポップですね、キャッチーですね! 水割りならぬ〈『オジ割』をください〉って言ってね(笑)」

 


RELEASE INFORMATION

松永天馬 『不惑惑惑』 TEN/TOWER RECORDS LABEL(2022)

リリース日:2022年2022年11月2日(水)

■初回生産限定盤(CD+DVD)
品番:TEN-0004 / 0005
価格:4,400円(税込)

■通常盤(CD)
品番:TEN-0006
価格:3,000 円(税込)

TRACKLIST
CD
1. そうだろうどうだろう
2. バニーガールアーミー(feat. キングサリ)
3. 推さないで
4. SEXY HARAJYUKU
5. ナイトサファリ
6. ぼくたちは失敗
7. キリスト・ロック
8. パフェ評論(feat. 天神・大天使・閻魔)
9. 君とは結婚すると思ってたんだ
10. 不惑惑惑

DVD
「松永天馬47都道府県ツアー~四十七人の天馬~東京公演」@渋谷WWW(110min)
1. ラブハラスメント
2. 生欲
3. ポルノグラファー
4. Blood,Semen,and Death.
5. 君は億万画素
6. 好きな男の名前、腕にコンパスの針で書いた
7. ワンピース心中
MC
8. 天馬のかぞえうた
MC
9. ピンクレッドVII
10. 生転換
11. 身体と歌だけの関係

EN1
12. ナルシスト

EN2
13. 不惑惑惑
MC
14. シンジュク・モナムール

MUSIC VIDEO「バニーガールアーミー」feat. キングサリ

■予約者優先 購入者特典情報
・初回生産限定盤と通常盤、それぞれにデザイン違いのステッカー封入特典あり
・タワーレコード オンライン・タワーレコード店舗特典:TMトランプ柄・トレーディングカード ※全4種ランダム配布

 

LIVE INFORMATION
松永天馬「不惑惑惑」インストアライブ ~不惑迷惑カラオケTOUR~

2022年11月2日(水)タワーレコード池袋店
開演:19:00
2022年11月3日(木・祝)タワレコ―ド錦糸町パルコ店
開演:13:00
2022年11月12日(土)ヴィレッジヴァンガード下北沢
開演:15:00
2022年11月17日(木)タワーレコード梅田NU茶屋町店
開演:19:00
2022年11月20日(日)タワーレコード名古屋パルコ店
開演:13:00
2022年11月26日(土)ヴィレッジヴァンガード渋谷本店
開演:13:00
2022年11月27日(日)タワーレコード渋谷店 5F イベントスペース
開演:13:00

 

松永天馬 “不惑惑惑” RELEASE TOUR ~不惑誘惑~
2022年12月29日(木)愛知・名古屋 CLUB UPSET
開場/開演:18:30/19:00
2022年12月30日(金)京都・祇園 EN-LAB.《エンラボ》
開場/開演:18:30/19:00
2023年1月8日(日)東京・渋谷 WWW
開場/開演:17:00/18:00

3地区通し券:16,500円(税込/ドリンク代別/オリジナルチケット&オリジナルグッズ付)
単日前売券:5,500円(税込/ドリンク代別)
※整理番号順先着、なくなり次第終了

当日券:6,600円(税込/ドリンク代別)
入場順:通し券→前売券→当日券 お一人様2枚まで 3地区通し券:紙チケット 単日券:スマチケ(同行者登録必要)

一般発売:2022年9月3日(土)10:00~
https://eplus.jp/temmamatsunaga/

 


PROFILE: 松永天馬
音楽家、詩人、ときどき俳優、映画監督。2008年、〈トラウマテクノポップ〉バンド・アーバンギャルドのボーカル、コンセプターにしてリーダーとして『少女は二度死ぬ』でデビュー。すべての歌詞を担当し、ポップかつ実験的、独特な言語世界を構築。2015年、早川書房より「自撮者たち」を発表し作家活動を開始。2017年、よりディープな詩世界、〈男性〉性に踏み込んだキャリア初のソロアルバム『松永天馬』をリリース。バンドと並行してソロ活動を本格化。2018年、初の長編映画「松永天馬殺人事件」を監督・脚本・音楽・主演。新人映画の登竜門〈MOOSIC LAB 2018〉にてミュージシャン賞、男優賞のほか、余りにも規格外な内容であることから急きょ新設された〈松永天馬賞〉を受賞後、劇場公開。2019年、タワーレコード内にプライベートレーベル〈TEN RECORDS〉発足。第一弾としてセカンドソロアルバム『生欲』リリース。2022年よりYouTuberとしても活動を開始。またソロデビュー5周年を記念し、無謀ともいえる47都道府県ツアー〈四十七人の天馬〉を開催中。11月、3年ぶりとなるソロサードアルバム『不惑惑惑』をリリース。俳優としては「Let’s 天才てれびくん」(NHK Eテレ、2015年)、「シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎」(NHK BSプレミアム、2016年)、「リコカツ」(TBS、2021年)などで異形の存在感を発揮。上坂すみれ、新しい学校のリーダーズ、twinpaleなど数々のアーティストに作詞・楽曲提供も行っている。自作詩を朗読して勝敗を決める〈詩のボクシング〉の世界チャンピオンタイトル保持者でもあり、ジャンルを越境して多岐にわたって活動する全身表現者。