©Amar Mehmedinovic

ティーレマン指揮、ウィーン・フィルとの見事なコラボレーションが生み出す絵画のようなブラームス

 最近は『トリスタン』や『ファンタジア』といった尖ったコンセプト・アルバムをリリースし続けるイゴール・レヴィット。ソニー・クラシカルでは、協奏曲をメインに据えたアルバムは始めてとなる。

 共演はクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィル。ティーレマンとは、以前モーツァルトの協奏曲で初共演して意気投合したという。彼らが選んだのはブラームス。2つの協奏曲に加え、後期のピアノ小品を収録した。

IGOR LEVIT, CHRISTIAN THIELEMANN, VIENNA PHILHARMONIC ORCHESTRA 『ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番/ピアノ小品集』 Sony Classical(2024)

 ピアノ協奏曲第1番の冒頭、どっしりと構えた呼吸感でオーケストラを動かすティーレマンに、潤いのある音色でレヴィットのピアノが入ってくる。下へ下へと潜り込んでくる低弦の上に、明滅する光を射し込ませるピアノ。絵画のように鮮やかなブラームスだ。

 ピアノ協奏曲第2番は、色彩的で、流れの良さが際立つ。とりわけ弦楽器の表情が豊かで、第3楽章のチェロの柔らかな音色や、第4楽章の冒頭での変化に富んだ色彩は類例がない。

 ティーレマン指揮ウィーン・フィルの水彩を思わせる美しい音の重なり。フーガ部分で、角が立たぬよう柔らかい響きで紡がれていくところに指揮者の美学もうかがえる。一方でアクが抜けたワーグナーになりかねない危うさもあるなか、レヴィットのピアノが音楽に膨らみと、立体性を与え、ブラームスの心奥をえぐり出すうねりまで引き出す。見事にキマりまくったコラボレーション。

 後期のピアノ独奏曲でも、レヴィットはしっとりと旋律を歌わせる。もちろん、両手のバランスが超絶にいいので、安っぽい感傷にはならない。“7つの幻想曲”最終曲での交錯する声部など、見通しのいいピアニズムだ。

 “4つの小品”の第1曲などで、ゆったり楚々と歌わせる中間部のあと、主部再現のためのブリッジのような箇所では、2つの異なった感情をしっとりと混じり合わせる。感情への距離が近づいたり遠のいたり、それが別なものへとするりと変貌していく。その推移こそが強烈にエモい。