
シンプルだからこそ難しいアコースティック
――マインドが変化し、書く歌詞も変わったタイミングで、原点回帰となるようなアコースティックツアーに臨んでいるのも面白いですね。
「実をいうと〈47都道府県の面白い会場を弾き語りで周るツアーがしたい〉っていうのは、ずっと前からマネージャーさんに言っていたことなんです。構想として自分のなかにあったものが、ようやく叶いました」
――現在〈弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”〉は進行中かと思いますが、いかがですか。
「すっごく楽しいですよ。長い間、ライブができなかったし、曲をリリースしても直接伝えることができなかったので。
大きな会場でライブするよりも、息遣いが聴こえてくるのが弾き語りだと思うんです。今回のツアーは、目の前で聴いてくれている姿や喜んでくれている表情を見られるから、音楽の根本的な喜びを感じられてますね」
――今回リリースされる『まばたき』もアコースティックな作品ですね。
「ギターと歌での表現は、最初から自分がずっとやってきたことですし、ツアーを周っていて、シンプルだからこそ難しいと改めて気づかされたというか。見透かされてしまうようなところもあると思うんですよね。そこに、あえてまた挑戦したいなと。アコースティックツアー同様、シンプルな編成での曲作りもずっとしたいことでしたし、コロナ禍を経て自分自身がアコースティックな曲を聴くことも増えたので。
〈こういう作品を作りたい〉とディレクターさんに相談していくなかで、ようやくひとつ形になったのが“まばたき”でした」

今の私が歌いたい恋愛の曲
――リードトラックの“まばたき”の制作は、どういった経緯でスタートしたのですか。
「スタッフの方に〈恋愛の曲を歌ってみるのもいいんじゃない?〉と言われたのが、そもそものきっかけでしたね。最近は恋愛にフォーカスした曲を書いていませんでしたし。そこから〈今の私は恋愛の曲でどういうことが歌いたいんだろう〉と考えていきました」
――どのような結論にたどり着いたのですか。
「すごく大切な人と〈もうお別れだ〉という、別れの瞬間を繊細に描写できたらいいなと。
今出演している『束の間の一花』にもちょっと通ずるところがある気がするんですけど、絶対に別れは来るじゃないですか。人間はいつか必ず死ぬことが決まっているし、ずっと連れ添ったとしても、どちらかが先に亡くなることも決まっている。しょうがない〈別れ〉があるからこそ、好きな人のことを少しも見逃さないで過ごしていきたいし、最後の瞬間も噛みしめたいなって。
もちろん、恋をすると強いだけではいられないんですけどね」
――〈恋愛の歌〉とのことでしたが、お話を訊いていると〈愛の歌〉な感じもしますね。
「可愛い曲とかピュアな少女っぽい曲が、どんどん書けなくなってきて(笑)。今の自分が書きたいものが、そういうモードじゃないのかもしれないですね。
ずっと同じことを書けるのも魅力的だけど、その時その時の作りたいものを作るのが、この仕事なんだろうな。10代の頃にしか書けなかったこともあるし、26歳の今の私にしか書けないこともあるはずなので」

欠かせないメンバーとの切なく温かいサウンド
――サウンドもシンプルながら芳醇な作品になりましたよね。
「アコースティックサウンドの作品にしたかったので、デビュー当初からお世話になっている高桑圭(Curly Giraffe)さんにプロデュースしていただきました。
ドラマーは、今回初めてお願いした山本達久さん。石橋英子さんのライブを観に行かせてもらったとき、初めて生で山本さんのドラムを聴いて〈歌うような演奏だ〉と今までにないくらい感動してしまって。〈いつか絶対、ご一緒にしたい〉と思っていたので、今回お声かけさせていただいたんです。快諾していただいて、すごく嬉しかったですね。
アコースティックギターとエレキギターは、ミュージカル『ジャニス』でお世話になった名越由貴夫さんに弾いていただいています。スライドギターが、またいい味を出していて……。
誰も欠かすことのできない、素敵なサウンドに仕上がりました」
――歌詞とサウンドが相乗効果を生んで、よりエモーショナルな作品になりましたよね。
「はい。すごく切なくて、でも温かい曲に仕上がりました。いろんな方にに共感してもらえるんじゃないかな」