インタビュー

大友良英が信じる〈小さな石〉のような音楽の希望――スペシャルビッグバンドの新作『Stone Stone Stone』が生まれるまで

Photo by Peter Gannushkin

大友良英スペシャルビッグバンドが、6年半ぶりのフルアルバム『Stone Stone Stone』を新レーベル〈Little Stone Records〉からリリースした。

スペシャルビッグバンドは2013年にNHK連続テレビ小説「あまちゃん」の劇伴バンドとして始動。同年大晦日の「NHK紅白歌合戦」へと出場した後、〈あまちゃんスペシャルビッグバンド〉から現在のバンド名に変更し、これまで大友の劇伴や各地の盆踊り、音楽フェスティバルなどで活動を継続してきた。2015年には新宿ピットインでのライブを収録したアルバム『大友良英 SPECIAL BIG BAND LIVE AT SHINJUKU PIT INN』をリリースしている。

新作のスタジオ盤『Stone Stone Stone』では、映画やドラマの音楽をもとにした楽曲から、アストル・ピアソラやチャーリー・ヘイデンのカバー、さらにはエリック・ドルフィーを換骨奪胎した“Gallophy”までを収録。クリス・ピッツィオコスやセンヤワ(Senyawa)、FENのメンバーなど、海外からも多数のゲストを交え、約10年間にわたって活動してきたスペシャルビッグバンドの集大成と言っていい内容に仕上がっている。バンドの魅力やアルバム制作過程について、大友良英が語ったインタビューのロングバージョンをお届けする。

※このインタビューは2022年8月20日発行の「intoxicate vol.159」に掲載された記事の拡大版です

大友良英スペシャルビッグバンド 『Stone Stone Stone』 Little Stone(2022)

 

ジャズ系ミュージシャンが一人もいないスペシャルビッグバンド

――大友さんはこれまで、Ground-ZeroやFilament、ONJQ、FENなど、様々なバンド/プロジェクトで活動してきました。それぞれ異なるコンセプトや特徴がありましたが、スペシャルビッグバンドは大友さんにとってどのような位置付けにあるのでしょうか?

「一番変わった成り立ちかもしれないです。スペシャルビッグバンドはもともとコンセプトありきで始めたわけではなくて、『あまちゃん』の音楽をやるために結成したバンドでした。だから当初は劇伴が終わったら解散するつもりでいたんですが、『あまちゃん』がヒットしたおかげでコンサートやツアーをたくさんやることになって、そうするとバンドのサウンドができてきたんですね。それで解散するのはもったいない、もう少し続けてみたいと思うようになりました。

2013年のライブ動画

それに、スペシャルビッグバンドって実はジャズ系のミュージシャンが一人もいないんですよ。全員クラシックもしくはロックやポップスの出身で、そのジャズっ気のなさも新鮮でした。以前、ONJOというオーケストラで活動していたときに、〈ジャズ経験者以外の人を集めてジャズをやろう〉と考えたことがあったんですね。けれどそれがどこまで上手くいったのかは自分でも正直わからいまま解散してしまったので、その続きがスペシャルビッグバンドでできるかもしれないと思ったのもあります。

それで続けることにしたのですが、3.11の震災後のいろいろな活動の中で盆踊りをやるようになって、そしたらスペシャルビッグバンドが一番良かったんです。なのでしばらくは〈盆踊りをやるバンド〉となり、同時に、『あまちゃん』以降も劇伴のときに声をかけるようになって、その時々に応じていろいろな音楽をやるバンドみたいな位置付けになっていきました」

 

日本っぽくて訛った、ヘンなサウンド&グルーヴ

――スペシャルビッグバンドの〈バンドのサウンド〉の魅力はどのあたりに感じていますか?

「それまで僕が作ってきたバンドは自分で最初に方向性を大まかに決めていましたが、スペシャルビッグバンドはコンサートを重ねる中で独自のグルーヴ感みたいなものが生まれてきたので、要するに僕がコントロールせずにバンドサウンドが出来上がったんです。それがとても魅力的で、しかもなんだかヘンなんですよね。日本っぽいというか。

ジャズであれロックであれ、多くのミュージシャンは日本っぽい身体性をなんとかアメリカに寄せることで格好良さを作ってきたところがあったと思う。だけどスペシャルビッグバンドのメンバーは欧米音楽へのコンプレックスがないので、そういう憧れが全くビートに出てなくて、ポジティブな意味で訛っているというか。そこが本当に面白いんです。だから盆踊りも上手くハマったんじゃないかな。それは僕にとってすごく特別で、とても居心地がよいですね」

――〈日本っぽさ〉というのは、メンバーの大半がもともとチャンチキトルネエドとしてチンドン風の音楽をやっていたこととも関係しているのでしょうか?

「いや、チンドンとも微妙に違うんですよ。たしかにチンドンも日本的なビートが西洋音楽と混ざった感じがあって、たとえば篠田昌已さんや大熊ワタルさんがそれを意識的にすごく良い形で取り入れたけど、それとも違っていて、たぶんそういうことをあまり意識しなかったのに、なんだか自然にそうなっていったってほうが近いかな。

そういう意味ではチャンチキトルネエドのメンバーたちの存在は大きかったです。その独特の日本っぽいグルーヴ感みたいなものは無意識のうちに出てきたものなので、そこは変にいじって壊したくないなって思ってます。

音頭にしても、他の国の人とだとああならないと思うんですよ。それが『あまちゃん』でコンサートを重ねたおかげもあって、スペシャルビッグバンドだと阿吽の呼吸でできてしまう。単にリズムだけの話ではなくて、パッとメロディーを合わせても独特のノリが出せる。『あまちゃん』のテーマ曲みたいにすごくシンプルなメロディーでもこのバンドならではの感じになるんです」

2014年作『ええじゃないか音頭』収録曲“地元に帰ろう音頭”