インタビュー

大友良英が語る、〈たまたま〉の大切さと小さな営みに賭けるささやかな希望――スペシャルビッグバンドの新作『Stone Stone Stone』をめぐって

Photo by Peter Gannushkin

大友良英が語る、〈たまたま〉の大切さ、あるいは小さな営みに賭けるささやかな希望
――スペシャルビッグバンドが6年半ぶり新作『Stone Stone Stone』をリリース

 大友良英スペシャルビッグバンドによる6年半ぶりのフル・アルバムが完成した。映画やドラマの音楽をもとにした楽曲から、アストル・ピアソラやチャーリー・ヘイデンのカヴァー、さらにはエリック・ドルフィーを換骨奪胎した“Gallophy”まで収録。クリス・ピッツィオコスやSenyawa、FENのメンバーなど、多数のゲストを交えたアルバムは、約10年間にわたって活動してきたバンドの集大成と言っていい内容に仕上がっている。完成した新作について、中心人物である大友良英に話を訊いた。

大友良英スペシャルビッグバンド 『Stone Stone Stone』 Little Stone(2022)

 

――スペシャルビッグバンドは大友さんの活動の中でどのような位置づけにあるのでしょうか?

 「スペシャルビッグバンドはコンセプトありきで始めたわけではなくて、もともとは『あまちゃん』の音楽をやるために結成したバンドでした。なので当初は劇伴が終わったら解散するつもりでいたんですが、ツアーを重ねていくうちにバンドのサウンドができてきて、もう少し続けてみたいと思うようになったんです。

 それに、スペシャルビッグバンドって実はジャズ系のミュージシャンが一人もいないんですよ。そのジャズっ気のなさも新鮮でした。以前、ONJOというオーケストラで活動していたときに、〈ジャズ経験者以外の人を集めてジャズをやろう〉と考えたことがあって、その続きがスペシャルビッグバンドでできるかもしれないと思ったのもあります」

――どのようなきっかけで新作『Stone Stone Stone』のレコーディングは始まりましたか?

 「コロナ禍が大きかったです。それ以前からこのバンドのために少しずつ曲を書いていたんですけど、コロナ禍に見舞われて、これから当分の間はビッグバンドでステージを作ることもできないかもしれない。そう思ったら急に録音したくなって。ちょうど同じ時期に小泉今日子さんが〈小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた〉とツイートして、そのときにいろいろなアイデアが頭の中に湧いてきた。それは音楽的なコンセプトというよりは漠然とした世界観なんですが、小さな石のような音楽っていいなあと。スペシャルビッグバンドならそういう音楽ができるなと思ったんですね」

――アルバム内容からは、非常にパーソナルな側面と、社会的な側面の両方を感じます。それらが地続きであるようにも思います。

 「政治的な主張のために音楽を動員する気はまったくないです。ただ、音楽を作るということと、自分が普段生きていることと、政治って、ぜんぶ地続きで繋がっているとは思うんです。たとえば30年間、僕がいろんな国を自由にツアーして、いろんな人たちと音楽をやれてきたけど、それはたまたまそういう時代で、比較的平和だったからできただけで、いざ今のような状況になると、そういうことはできなくなってしまう。じゃあどうしたらいいのかというと、音楽の中に直接的な主張を入れるよりは、音楽の構造とか作り方の中に自分で納得のいく方法を入れていくしかないな、というのがコロナ禍の中で思ったことでした。このビッグバンドのあり方って、僕が作ったけれども、たまたま出来上がったところもある。『あまちゃん』がきっかけでたまたま縁ができた人たちと、たまたま一緒にやっていたら、たまたまいいグルーヴ感が生まれた、ということはすごく大切にするべきだって思うんですよね。スペシャルビッグバンドでは盆踊りの音楽もやりましたけど、そもそも福島での震災と原発事故がなければ盆踊り自体やることがなかったかもしれない。それをメンバーと共有できているのはすごくいいことで、そこで生まれたグルーヴ感で、盆踊りじゃないものも作れたらいいなということが、僕の中ではミャンマーの出来事や香港の出来事とも地続きのような気がしています。それに言葉を与えてくれたのが小泉さんのツイート。つまり、一人一人の小さな営みの中でも納得のいくように何かをやっていくうちに何かが動くかもしれないという、ささやかな希望だけど、そこしか信じられるものはないかなと。そんな思いがありますね」

 


大友良英(Yoshihide Otomo)
1959年生まれ。映画やテレビの音楽を山のように作りつつ、ノイズや即興、フリージャズの現場がホームの音楽家。ギタリスト、ターンテーブル奏者。活動は日本のみならず欧米、アジアと多方面にわたる。大友良英スペシャルビッグバンドやONJQ、Small Stone Ensemble、GEKIBAN等数多くのバンドを率いる。また美術と音楽の中間領域のような展示作品や一般参加のプロジェクト、プロデュースワークも多数。震災後は故郷の福島でプロジェクトFUKUSHIMA!を立ち上げ、現在に至るまで様々な活動を継続中。2014年大友良英スペシャルビッグバンド結成、以後、大友の活動の中心的な役割を果たしている。  
大友良英WEBサイト:https://otomoyoshihide.com

 


LIVE INFORMATION
山猫音楽会「夏の蝶 – dedicated to Oki Itaru -」
2022年8月27日(土)埼玉・越生 ギャラリィ&カフェ 山猫軒

「Arcreaみらいラボ」 誰でも参加できる「オーケストラひめじ」 音楽家 大友良英と作る音のワークショップ
2022年9月3日(土)兵庫 姫路市文化コンベンションセンター

「Stone Stone Stone」アルバム発売記念ライヴ
2022年10月24日(月)東京・新宿 PIT INN
https://otomoyoshihide.com/event/