©Peter Gannushkin

「サントラ盤はドキュメンタリー。即興演奏の録音を出す感覚に近い」

 「劇伴は大根仁監督と打ち合わせをして、テーマ曲よりも先に、アンビエントのような、背景に流れる空気みたいな音楽を作ることから始めました」――そう語るのは、長澤まさみ主演の連続ドラマ「エルピス -希望、あるいは災い-」で音楽を担当する大友良英。最初に“アンビエント”、次に“災い~バディ”ができたそうで、「通常の劇伴みたいに感情を煽って盛り上げるより、背景の空気感の有無で何かが見えてくる、というやり方」を試みたという。

 2曲完成後、メインテーマに取りかかった。「大根監督から〈重いビートで推進力があるものを〉と指示があって、80年代初頭のパンクやニューウェイヴなどが参考音源として送られてきました。それでああいう古風な、いかにもテレビドラマの王道みたいなテーマをあえて作りました」

 ノイジーで不穏なトラックもあるが、大友は「昔はノイズが劇伴で鳴ったら空気感にならなかったと思うんですよ。だけど今は多くの人がそういう音楽を知っているから、ノイズでもアンビエントな役割を果たせる。“闇”や“トラウマ”という曲では、イトケンにリズムトラックを発注する時点で〈80年代のインダストリアルミュージックみたいな音色で〉と依頼しました」と明かす。

 実際の冤罪事件から着想を得た「エルピス」は、渡辺あやが脚本を手がける骨太の社会派エンタテインメントとしても評判だ。「こんなに脚本の段階で面白いと、それを音楽にどう反映させるのか、むしろ困りますよ(笑)。ただ、脚本の面白さや社会風刺のようなものに対して、音楽は違う場所からアプローチしないといけない」と大友。ドラマにおける音楽の役割を尋ねると「劇伴の一つの役目は、視聴者が持つ音楽的な記憶に働きかけること。つまりフィクションの世界と現実世界の間に漏れ出してくるような働きを持つんじゃないか」と話す。

 そうして完成したサントラ盤には「未完成なものの面白さ」もある。「映像ありきで作っているので、本当はもう少し音を足したいと思うこともあります。でもそこはドキュメンタリーだと捉えていて、その意味では即興演奏の録音を出す感覚に近いんです」。ライヴでは、また別の可能性が開く。「劇伴を含めて最終的にドラマを成立させるのは視聴者。そうやって視聴者に預けたものを、劇伴のライヴでは、もう一度音楽の場に持って来る。演奏中は『エルピス』からどんどん離れていくかもしれない。ある意味、劇伴から音楽を解放するのがライヴかな」

大友良英 『ドラマ「エルピス -希望、あるいは災い-」オリジナル・サウンドトラック』 コロムビア(2022)

 


LIVE INFORMATION
菊地成孔 3DAYS デュオ with 大友良英
2022年12月24日(土)東京・新宿 PIT INN
開場/開演:19:00/19:30

大友良英 PITINN 年末4デイズ8連続公演
2022年12月26日(月)~29日(木)東京・新宿 PIT INN
■昼の部
開場/開演:14:30開場/15:00開演

■夜の部
開場/開演:19:00開場/19:30開演
https://otomoyoshihide.com/date/2022/12/