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盆踊りの現場で独自のサウンドが生まれた

――スペシャルビッグバンドが『あまちゃん』の劇伴にとどまらない、独自のバンドだと感じるようになったのはいつ頃でしたか?

「『あまちゃん』の劇伴にとどまらないバンドになったというより、むしろその延長線上でいろいろやりたいと思うようになっていったのが正直なところかな。

面白いことができる可能性があると確信したのは盆踊りをやるようになってからでした。すでに『あまちゃん』のときにも少しやっていたんですが、〈フェスティバルFUKUSHIMA!〉や〈アンサンブルズ東京〉など、盆踊りの現場が増えていく中で独自のものが生まれていっているような気がして。同時に、一般の人とのワークショップにもスペシャルビッグバンドのメンバーによく入ってもらっていたんです。なので、皆で共通の経験を積みながら、少しずつ馴染んでいったというか。

震災後は僕自身、いろいろと定まらないことをやってきて、メンバーたちはある意味で巻き込まれてしまったとも言える。でもそれを面白がってくれて独自のものができていったので、長く続いているんだと思います。なのでメンバーたちには、本当に感謝しかないです」

2017年のライブ動画

――2015年には新宿ピットインでの演奏を収めたライブアルバムをリリースしました。今あらためて振り返ったとき、あのアルバムはどのような作品として捉えていますか?

「あの時点ではベストの内容でしたが、もうちょっと先に行けるなとは思っていました。あのアルバムには『あまちゃん』とそれ以降のいろいろな曲が両方とも並んでいたので、もっとこのバンド独自のカラーが出せないかなと。

そう思っているうちに大河ドラマの『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年)に突入していくんです。『いだてん』の音楽でもスペシャルビッグバンドのメンバーの大半が参加していて、さっき言った盆踊りもやりつつ、だんだん今回のアルバムに繋がるものが少しずつ見えてきたというか」

 

小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた

――どのようなきっかけで新作『Stone Stone Stone』のレコーディングは始まったのでしょうか?

「コロナ禍が大きかったです。その前からこのバンドのために少しずつ曲を書いていたんですけど、コロナ禍に見舞われて、盆踊りもできないし、これから当分の間はビッグバンドでステージを作ることもできないかもしれない。そう思ったら急に録音したくなって。

ちょうど同じ時期に小泉今日子さんが〈小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた〉とツイートして、そのときにいろいろなアイデアが頭の中に湧いてきました。それは音楽的なコンセプトというよりは漠然とした世界観なんですが、小さな石のような音楽っていいなあと。

それで形になったのが、一つはカフェ・オトの〈Takuroku〉レーベルから出した『Small Stone』(2020年)というソロアルバム。もう一つはまだ試行錯誤の段階だけど、ブルーノート東京で今年3月に初演したSmall Stone Ensemble。それと今回のスペシャルビッグバンドのアルバムです。このバンドなら、小さな石がたくさんあるような音楽ができるなと」

大友良英の2020年作『Small Stone』収録曲“Small Stone 2 (The Diet May 18th 2020)”

――指揮を用いて即興的なアンサンブルを構築するという意味では、Small Stone Ensembleと今回のアルバムの一部収録曲には共通点も見られます。

「近いところもあるけど、完全に同じではないかな。もちろんどっちも即興演奏を指揮でコントロールしようとするところは共通していて、“Gallophy”では皆で指揮し合いながらレコーディングしましたし、1曲目の“Stone Stone Stone”はオレと鈴木広志が2人で指揮をした。だけどスペシャルビッグバンドはお互いに顔も知っていてどんな音を出すのかわかっているメンバーなんです。

逆にSmall Stone Ensembleは基本的には初対面の人同士でもやれるプラットフォームになればいいかなと思っていて。だからブルーノート東京のときは、すごく面白くなったけどやっぱりジャズ系のミュージシャンが多かったから、もっといろんな人とやれたらいいなと考えています」