©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会

1978年、名もなき衝動が永遠になった――〈東京ロッカーズ〉の伝説的ムーヴメントが映画となってよみがえる!

 70年代の終わり、疾風のごとく現れて停滞気味だった音楽界にただならぬ衝撃を与えた〈東京ロッカーズ〉なるムーヴメント。ニューヨークで興ったノーウェイヴと同様に音楽ジャンルというよりもアティチュードの運動と捉えられる彼らの演奏は、完成されたものに対する嫌悪や都市生活における閉塞感を打破する姿勢が強く打ち出され、音楽性や創造性の面では未完成だけども自分だけが持つ〈今、ここ〉的感覚を優先することで発生するリアルな響き、自分たちのカルチャーは自分たちで作り上げるのだというDIY精神などはのちのインディーズ・シーンに多大な影響を及ぼした。そんな東京ロッカーズが産声を上げ、そして刹那的に消えていく様子を中心に据えた青春群像劇「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」。PASSレコードやゴジラ・レコードなどと並んでパンク/ニューウェイヴ系の重要レーベル、テレグラフ・レコードの主宰者であり、フォトグラファーとしてシーンを間近で記録していた地引雄一の著書〈ストリート・キングダム〉を原作にしたこのフィクション作品。メガホンをとったのは、初期のナゴム・レーベルを代表するバンド、ばちかぶりの田口トモロウ。脚本は、1970年生まれの宮藤官九郎が手がけ、音楽は、日本のアンダーグラウンド・ミュージック・シーンに精通している大友良英が担当。そう、爽快ロック・ムーヴィー「アイデン&ティティ」を生み出したチームがふたたび集結しているのである。となったら主演はやはりこの人でなくては……というわけで、地引をモデルにした主人公ユーイチを演じているのはもちろん銀杏BOYZの峯田和伸だ。

 のちにZELDAを結成する小嶋さちほが作っていたミニコミ誌「ロッキンドール」の存在を知った地引のもとに、ライヴにすぐこい!!とハガキが届き、渋谷屋根裏で紅蜥蜴(LIZARD)に初遭遇、というようなエピソードの数々はリアルタイマーたちを喜ばせるだろうが、本作の肝はストリートという名の荒野で何だかわけのわからない違和感を剥ぎ取ろうとして、名前のないものを闇雲に追いかけながら七転八倒する若者たちの愛おしさを描くことにある。いつの時代もインディペンデントで活動する者にとって取り巻く環境は荒野なのかもしれないが、アイデンティティ確立のため俺たちにはどうしてもロックが必要、という切実さの温度が今よりも高かったあの頃、親のすねかじりやヒモを続けながらでもそこに踏み留まってその場所から降りようとしなかった映画の登場人物たちを、監督は終始温かな眼差しで捉え続けるだろう。

©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会

 やはり映画の主役というべきは音楽。つまりライヴ・シーンが最大の見どころと言っていい。今回はオリジナル楽曲の使用を選択し、すべての出演者たちは当てぶりで演じ切っているのだが、これは賢明な判断だったと思う。妙に瘦せていて至るところで濁っているけど確実に独自の意思を有しているビートや音色を移植したことで、映画全体に特異な臭気を纏わせることに成功しているし、渋谷屋根裏、新宿LOFT、京大西部講堂、六本木のs-kenスタジオなどをセットで忠実に再現してみせた舞台美術にも多大な説得力を持たせているからだ。実にリアルなのは、ライヴハウスの扉を開けた瞬間、モワンと押し寄せる異様な空気を映像に焼き付けているところ。異様だけども心地いい。誰も濁りを持ち込まないから、また制約がないから、いつも空気がやけに澄んでいる。その辺りは、あの頃の記憶がいまだ身体に染みついている田口監督の面目躍如たる演出と言える。

©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会

 そして役者陣についてだが、東京ロッカーズの中核を成すLIZARDのモモヨを若葉竜也、もうひとつの重要バンド、FRICTIONのレックを間宮祥太郎、オーガナイザー的役割も担っていたs-kenを大森南朋、そしてZELDAのチホこと小嶋さちほを吉岡里帆、サヨコを中島セナが演じるなど、誰が誰をどういうふうに演じているのかを確認するのはもっとも楽しい作業かもしれない。なかでも豚の内臓を客席に放り投げ、全裸で客席にダイヴ、挙げ句の果てに放尿まで行う阿鼻叫喚パフォーマンスを丹念に再現してみせるザ・スターリン、遠藤ミチロウを演じた仲野太賀の存在がやたらとまぶしい(この演出もまたバンド時代に破廉恥パフォーマンスが得意芸だった監督の面目躍如と言えるかも)。また、江戸アケミ役を引き受けた中村獅童も素晴らしい存在感だ。じゃがたらに影響を受けてロックを始めた監督が彼をどのように描くのか、自分の踊りを踊れ、というアケミのメッセージをどういったふうに伝えてみせるのか。ぜひしっかりと確認されたい。

 作品に関わったすべてのスタッフからただならぬ熱を引き出し、ひとつのロック伝説に切実な思いを捧げてみせた、そんな幸福な音楽映画〈ストリート・キングダム〉。パッショネイトな瞬間は最後の最後まで持続し、エンド・クレジットではLIZARDの名曲“宣戦布告”の激烈カヴァーが高らかに鳴り響く。ヴォーカルを務めるのは峯田和伸と若葉竜也のご両人で、まさに目の覚めるような素晴らしいシャウトを披露している。

 


MOVIE INFORMATION
映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」

監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
出演:峯田和伸 若葉⻯也 吉岡里帆 仲野太賀 間宮祥太朗
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(2026年|130分|日本)
©2026映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』製作委員会
2026年3月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
公式サイト:https://happinet-phantom.com/streetkingdom
公式X:@streetkingdomjp
公式Instagram:@streetkingdomjp