コラム

『さむがりやのサンタ』『スノーマン』の絵本作家レイモンド・ブリッグズを想う。戦争や環境問題、ユーモラスだが厳しいまなざしから学ぶべきこと

EXOTIC GRAMMAR 84-1

絵本作家レイモンド・ブリッグズを想う
まなざしは深く鋭く柔らかく
過去から未来へ伝える無常

 冬の本屋に足を運ぶと、この季節の風物詩ともいえる絵本が並んでいる。ひときわ目立つ棚には、『さむがりやのサンタ』と『スノーマン』の表紙本。思わず涙腺がゆるむ。生みの親である絵本作家レイモンド・ブリッグズは、2022年8月9日に88歳で帰天し、名実ともに雲の上の人になってしまった。もうこの世にはいないことを思うと本当に残念で寂しい。イギリスでは毎年この時期、テレビで“The Snowman”の映像が放映されてきたという。今年は特別な追悼番組がオンエアされるのだろうか。『スノーマン』は500万部以上のロングセラー。『さむがりやのサンタ』も世界中のファンから愛され続け、民族も国境も越えて読み継がれている。不動の存在であるキャラクターたちも、生みの親であるレイモンド・ブリッグズの存在感も永遠だ。

 70年代半ばに『さむがりやのサンタ』を読んでから、ゆるやかなファンではあったけれど、レイモンド・ブリッグズ作品に流れる「哲学」を意識したことはなかった。イギリスでベストセラーになった絵本『エセルとアーネスト ふたりの物語』はレイモンドの両親の物語で、そのアニメ映画が、東京では2017年に岩波ホールで上映されていたことを今頃になって知る。嗚呼、モグリのファンは反省しきり。日本語版DVDを遅ればせながら鑑賞する。

 物語の始まりは1928年のロンドンから。牛乳配達夫のアーネストと貴婦人に仕えていたメイドのエセル。二人は偶然の必然のように出会い、教会で結婚式。ウィンブルドンの古い家を25年ローンで手に入れて、念願の一人息子レイモンド誕生。幸せな日々に忍び寄る大恐慌と戦争の影。映画の中で流れるラジオ放送に耳を傾けると、ナチスの対ユダヤ政策など、ゆがんだ現代史をリアルに感じる。世の中はどんどんキナ臭くなり激動の時代へ。

 レイモンドは5歳で田舎に疎開し、両親は自宅の庭に掘った防空壕暮らし。ヒロシマの原爆のニュースもラジオで流れる。終戦を祝う路上パーティーで父は軽快に踊るが、息子が戦死したご近所さんに気がつき肩を落とす。第二次大戦が終わり、やがて朝鮮戦争が始まる。レイモンドにも召集令状が届く。美大卒ゆえに製図係として出兵。しかし、早めに除隊。アートの世界へ。

 ラジオのニュースでは、カザフスタンでソ連の原爆実験の報道が流れる。

 高度経済成長期、自家用車が登場。素敵な緑色の車だ!(BGMがまたイカしている!)レイモンドは、美術学校の非常勤講師になり、婚約者を両親に紹介するが、教会では結婚せず役所に届けだけを出し、母親のエセルをがっかりさせてしまう。ジェネレーションギャップはいずこも同じか。

 決して美化されることない家族史の看取りのシーンには胸が締め付けられる。映画ラストシーンは、実家の前の立派な洋梨の木。戦争中、田舎に疎開した幼い日のレイモンドが食べた梨の種から育った木だった。彼はグリーンフィンガーなのか。絵本作家としてアイデアの種をまき反戦文学作品を育てたのか。

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