“ハートせつなく”から“悲しみの恋人逹”、ジョニー・デップとの共演まで57年間の名演
それでは、約57年に及ぶ彼のキャリアの中から、いくつかの名演を振り返ってみたい。
60年代は、ヤードバーズ時代の“ハートせつなく”(65年)でスティールな音色のソロを、第1期ジェフ・ベック・グループの“Shapes Of Things”(66年)ではブルースを下地にしたニューロックを展開。
70年代には第2期ジェフ・ベック ・グループ“Got The Feeling”(71年)でニューソウル的なロックを、ベック・ボガート&アピスではスティーヴィー・ワンダーの曲“迷信”(73年)をヘビーなアレンジでヒットさせた。ソロになってからは美しいバラード“悲しみの恋人逹”(75年)、ハードフュージョンの“Led Boots”(76年)が印象的。
80年代にはシンセのシークエンスを使った“Star Cycle”(80年)、久々にロッド・スチュワートと共演した“People Get Ready”(85年)、アームやハーモニクスで音程を作る離れ技を確立した“Where Were You”(89年)など。
その他にも中近東の曲をカバーした(2001年)、ライブで定番となった70年代クロスオーバー曲“Stratus”、美しいメロディーをベック流に料理したスタンダード“Over The Rainbow”(2010年)、最新アルバムからはマーヴィン・ゲイのカバー“What’s Going On”(2022年)など、誰もが認める名曲/名演は数多くある。
ジェフ・ベックの名は永遠に刻まれる
ジェフ・ベックは60代になっても、70代になっても現在進行形で勝負するプレイヤーとしてアグレッシブな姿勢を貫き、まだまだ伝説のギタリストに納まる気はなさそうだった。
また、台頭する若手ギタリストのハイテクニック指向やデジタル化するレコーディング技術の中において、ベテランの域に突入した彼がどのような形で存在意義を示すのか……こういったファンの杞憂を見事に払拭してくれた。古くからのファンとしては、それらが頼もしかった。往年のスタイルで再評価され、どんどん渋みを増していくギタリストは多い。しかし、ジェフ・ベックはまったく新しいオリジナルなスタイルで変化/進化を続けていった。
ジェフ・ベック――彼の名はギターミュージックシーンに永遠に刻み込まれる。
我々は彼の名を忘れることはないだろう。