音楽を手軽に聴く手段が増えた一方で、ハイファイなサウンドに触れることができるメディアも多様化している昨今。タワーレコードがおすすめしているのは、SACDでの音楽体験です。そのSACDの魅力をお伝えしている当連載、第8回目のテーマはジェフ・ベックの『Blow By Blow』(75年)と『Wired』(76年)の〈SACDマルチ・ハイブリッド・エディション〉です。今回は音楽評論家の近藤正義さんが、不朽の名盤を5.1chサラウンドで聴いた体験やSACDの音質について綴ってくれました。なお、いずれも過去に発売された完全生産限定盤ですので、在庫についてはタワーレコード オンラインや各店舗にお問い合わせください。 *Mikiki編集部

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タワーレコードのYouTube動画〈高音質のCD? 「SACD」とは《Q&A編》〉

 

幻の4chミックスを再現するソニーの5.1chサラウンド盤

70年代の初期、コロムビア・レコード(CBSソニー/現ソニーミュージック)では多くのアーティストが2chのステレオミックス(Stereophonic)とは別に4chミックス(Quadraphonic)を制作していた。マイルス・デイヴィス、サンタナ、マウンテン、シカゴ等々……。ジェフ・ベックも当時、同レーベルに所属しており、5枚のアルバムを4chミックスでもリリースしていた。しかし、4chのオーディオシステムは期待されたほどのブームにならず、70年代中期には姿を消してしまった。そして、当時は全く情報がなかったので知る由もなかったのだが、曲によってはミックスが大きく違っていたり別テイクが使われたりしていることが、後年になって話題となったのも面白い現象だ。

しかし、これら幻のアルバムを再現すべく日本のソニーミュージックによるリイシューが開始された。しかも、センターとサブウーハーチャンネルが追加された5.1chサラウンドだ。

まず、2014年3月に『Blow By Blow』、その他のアルバムが続々とリリースされ、そして2016年11月に『Wired』が登場している。

 

二大名盤を異次元の5.1chサラウンドで聴く

さて、今回採り上げる『Blow By Blow』と『Wired』。どちらも、その後のジェフ・ベックのインスト路線を決定付けた名盤だ。熱心なファンの間でも、どちらを支持するか好みの分かれるところである。なぜかと言うと、同時期のインストでありながらサウンドはがらりと変わっているからだ。

そのサウンドの凄さとは如何なるものなのか? せっかくなので5.1chサラウンド再生装置で聴いた感想を述べたいと思う。まず、あまりにもリアルな音像に驚くことは間違いない。全く異次元の世界のよう。例えるなら、広めのスタジオ内でジェフ・ベック及びバンドのメンバーが自分の周りを囲むように楽器をセッティングして演奏している、という感覚。つまり録音物を聴いているのではなく、生演奏の中心にいるような印象。また、2chミックスよりも広い空間を使って鳴っているので、ベースやバスドラなどの低音の響きは増し、エレクトリックピアノの揺れ幅、ドラムのリバーブ感の奥行きも最高に気持ちいい。

 

綿密に構築された音像が全てクッキリと聴こえる『Blow By Blow』

それでは、『Blow By Blow』の感想から申し上げよう。

JEFF BECK 『Blow By Blow(SACDマルチ・ハイブリッド・エディション)』 ソニー(2014)

ジェフ・ベックにしては、珍しく鳴っているギターの数が多いのが特徴。これはプロデューサーであるジョージ・マーティンが超多忙だったため、好きな時に好きなように使ってもらえるよう、ジェフが数多くのギタートラックを用意しておいたからだ。ジョージ・マーティンはそれらを使って各トラックを仕上げたので、このアルバムは綿密に構築されたサウンドが特徴。リチャード・ベイリー(ドラムス)とフィル・チェン(ベース)による強靭なファンクリズムセクション、マックス・ミドルトンによるジャジーなキーボードとアレンジ、そしてその上に何本も重ねられたジェフのギターやオーケストレーション。綿密に構築された音像が全てクッキリと聴こえることには感動すら覚える。

“悲しみの恋人たち(Cause We’ve Ended As Lovers)”におけるギターの深いエコー感、後方から聞こえてくるギター、オクターバーのエフェクト音のみだと思っていた“Thelonius”のAメロで、後ろで普通のギターサウンドも鳴っていること、“Diamond Dust”における四方から襲いかかってくる驚異のストリングスなど、通常の2ch再生では味わえない驚きが満載だ。

『Blow By Blow』収録曲“Cause We’ve Ended As Lovers”“Thelonius”“Diamond Dust”