3. Cilla Black “Alfie”

64年のビートルズのアメリカ上陸から始まるイギリスのアーティストが全米ポップスチャートを占拠するという現象をブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ぶ。これに対抗できた数少ないアメリカのアクトはモータウン勢、ビーチボーイズ、フォーシーズンズ、そしてバカラックだった。他方、バカラックの作品はイギリスでも愛されており、現地のシンガーあるいはバンドによって歌われることも多かった。シラ・ブラックの“Alfie”もその一曲に数えられ、バカラックは彼女のためにロンドンへ行き、レコーディングではピアノと指揮を担当している。〈人の世は酷薄だから惻隠の情など持たず、自分のためだけに生きるのが賢いのかもしれない。けれども私は愛を信じるよ、アルフィー〉という内容の歌詞を一切の照れもなく、高らかに歌い上げたこの曲は、音楽の壮大さもあいまって、説得力をもって我々の心に迫ってくる。バカラック本人がもっとも気に入っているのはこの曲とのこと。本人による歌唱も音源として残っており、実感のこもったその歌を聴くたびに涙が溢れ、やはり愛だよなという結論に至る。

 

4. Dusty Springfield “恋の面影(The Look Of Love)”

ポップスにおける色っぽさの表現を刷新した一曲といって過言ではない。ダスティの歌唱から窺える歌いにくそうな様子がセンシュアルなムードをより一層強めているように感じる。バースの前半におけるメロディの譜割りのミニマルさといったらない。シンコペーションを交えた〈タタ〉というリズムを繰り返しているだけだ。バカラックの作品が親しみやすく、そしていつまでも飽きがこないのは、単純さと複雑さが曲の中で交差しているからに違いない。

 

5. Burt Bacharach “Hasbrook Heights”

バカラック本人がボーカルを披露した曲。しわがれ声ではあるものの、甘く、そしてぬくぬくした歌声を聴くたびに、心が和まされる。編曲はいわゆるバカラック・サウンドを象徴するものだ。軽やかなシャッフルのリズム、トランペットのオブリ、ストリングスによるゴージャスなキメ、グロッケンの使用など、可笑しみと親しみやすさ、そして垢抜けた感覚が同居したアレンジが素晴らしい。

 

バカラックの音楽には汲めども尽きぬ魅力ある

他にも取り上げるべき曲はまだまだたくさんある。なんだかんだ言って結局一番好きなのはカーペンターズの“遙かなる影((They Long to Be) Close To You)”だ。棺桶に入れてあの世にもっていくのならこの曲だとすでに決めている。何度耳にしたかわからない“雨にぬれても(Raindrops Keep Fallin’ On My Head)”は、聴くたびになんて良い曲なんだと思わずにはいられない。もちろん“ディス・ガイ(This Guy’s In Love With You)”も名曲だし、“One Less Bell To Answer”の切なさは心を捉えて離さない。“Bond Street”のアバンギャルドでコミカルな世界はバカラックの資質をよく表しているようにも思う。切りがないのでこのへんでよすが、いくら語ってみてもバカラックの音楽には汲めども尽きぬ魅力が宿っていることは間違いない。

バカラックは逝ってしまったが、彼が残した名曲たちは、愛好家や音楽家のみならず、その名前を知らない人でさえも、これまでと同様にうっとりさせ続けるに違いない。

 


RELEASE INFORMATION

BURT BACHARACH, DANIEL TASHIAN 『Blue Umbrella』 Big Yellow Dog Music/ソニー(2020)

リリース日:2020年10月28日
品番:SICX 30088
定価:2,200円(税込)
解説:朝妻一郎
高品質Blu-spec CD2/バカラック&タシアン対談(翻訳付き)/歌詞・対訳付き

TRACKLIST
1. Bells Of St. Augustine
2. Whistling In The Dark
3. Blue Umbrella
4. Midnight Watch
5. We Go Way Back

ボーナストラック
6. 21st Century Man
7. Quiet Place

 

ELVIS COSTELLO, BURT BACHARACH 『The Songs Of Bacharach & Costello』 UMe/ユニバーサル(2023)

リリース日:2023年3月3日(金)
品番:UICY-16148/9
フォーマット:2CD
価格:3,960円(税込)
日本盤のみSHM-CD仕様

TRACKLIST
CD 1 – Painted From Memory (2023 Remaster)
1. In The Darkest Place
2. Toledo
3. I Still Have That Other Girl
4. This House Is Empty Now
5. Tears At The Birthday Party
6. Such Unlikely Lovers
7. My Thief
8. The Long Division
9. Painted From Memory
10. The Sweetest Punch
11. What’s Her Name Today?
12. God Give Me Strength

CD 2 – Taken From Life
1. Elvis Costello – You Can Have Her* 
2. Cassandra Wilson & Bill Frisell – Painted From Memory
3. Elvis Costello & The Imposters – Don't Look Now
4. Elvis Costello & The Imposters – Everyone's Playing House
5. Audra Mae – I Looked Away**
6. Elvis Costello & The Imposters – Taken From Life* 
7. Don Byron & Bill Frisell – My Thief
8. Jenni Muldaur – Shameless**
9. Elvis Costello & The Imposters – Photographs Can Lie
10. Audra Mae – In The Darkest Place**
11. Elvis Costello & The Imposters – Why Won't Heaven Help Me?
12. Jenni Muldaur – Stripping Paper**
13. Elvis Costello & Imposters – He's Given Me Things
14. Audra Mae – What’s Her Name Today?**
15. Elvis Costello – Look Up Again  ルック・アップ・アゲイン* 
16. Burt Bacharach – Lie Back & Think Of England**
未発表曲**、新録曲*

 


PROFILE: BURT BACHARACH
1928年5月12日、 米ミズーリ州カンザスシティ生まれ。1956年頃に作詞家のハル・デイヴィッドと出会い、1970年代初頭までコンビを組んで、ヒット曲、名曲を連発。代表曲には“遙かなる影”“世界は愛を求めている”“小さな願い”“サン・ホセへの道”“雨にぬれても”など、枚挙に暇がない。60年代から70年代にかけて〈バカラック・サウンド〉と呼ばれる独特のスタイルを編み出し、アメリカのポピュラー音楽界の頂点に立つ作曲家としての地位と名声を築き上げた。