ジム・オルークというと、『Eureka』(99年)以降の歌モノ作品が親しまれていたり、ソニック・ユースの元メンバーだったり、ウィルコのプロデューサーとしても知られていると思うが、活動範囲が多岐に渡りすぎているため、実態を把握するのはなかなか難しい。もともとシカゴのアヴァンギャルド界を出自とし、91年にドローン作品『Temper』をリリース。日本においてその名が知られるようになったきっかけは、翌92年に出たKK NULLとの共演盤『New Kind Of Water』だろう。当時ジムは23歳。デヴィッド・グラブスと組んだガスター・デル・ソルが、ポスト・ロック黎明期のオルタナティヴ・シーンで大きくクローズアップされるようになったも、ちょうどこの頃だ。
97年にジョン・フェイヒーの主宰レーベルより発表された『Happy Days』から、ミニマリズムを再構築しつつも、徐々にアメリカーナ要素が混ざるようになり、同年の『Bad Timing』ではその作風をさらに推し進める。そして、『Eureka』で歌モノに初挑戦。耳通りの良いポップスとして聴けるが、言ってみればヴァン・ダイク・パークスを思わせる緻密なアレンジを特徴とし、その時点での集大成的な雰囲気が本作にはなきにしもあらず!? また、友沢ミミヨ製のジャケに加え、60年代後期~70年代の邦楽の影響を露にしたことで、この『Eureka』が日本のファンにとって特別なものとなっている点も付け加えておこう。
その後に続く2001年作『Insignificance』でも『Eureka』路線を踏襲しつつ、それと同時進行でアンビエント・ノイズ盤『I’m Happy, And I’m Singing And 1, 2, 3, 4』を制作。精力的にソロ作のリリースを重ねる一方、ソニック・ユースへの加入や映画「スクール・オブ・ロック」の音楽監修など、大舞台での仕事も増えていく。ソニックス脱退後、2005年作『Mizu No Nai Umi』では自身の初期音源をリメイクしたり、2009年作『The Visitor』ではマイク・オールドフィールド『Tubular Bells』(73年)の再解釈に挑んだり、バート・バカラックのトリビュート盤『All Kinds Of People: Love Burt Bacharach』(2010年)では細野晴臣ややくしまるえつこらと共演したり……。近年もカフカ鼾での活動に前野健太らのプロデュースなど、人並み外れた好奇心でもってますますユニークなキャリアを築いているのである。