〈自分内クライアント〉のオーダーによって踏み出した次への一歩。力を出し切ったアルバムのその先を示す、抜けの良い新機軸が登場!

 今年のスカートは絶好調だ。澤部渡のソロ・ユニットとして活動してきたスカートは、4月に最新アルバム『CALL』を発表。初めてストリングスやホーンを入れ、ヴォーカルを押し出したサウンドで新境地を拓いたが、進化は継続中だった。そんないまのスカートの勢いの良さを証明するように、ニュー・シングル“静かな夜がいい”がリリースされた。『CALL』を送り出した後、「もしかして、スカートとして名乗り出してから目標にしていたことの多くをやりきってしまったんじゃないか」という思いに駆られて、次の一歩がなかなか踏み出せなかったという澤部。その突破口になったのが新曲“静かな夜がいい”だった。曲が生まれたきっかけを、澤部はこんなふうに振り返る。

スカート 静かな夜がいい KAKUBARHYTHM(2016)

 「これまでは結構、何も考えないで曲を書いてきたんです。〈あんな曲が書きたい〉とか、それくらいの気持ちで。今回はそこに制限を設けてみようじゃないかと思ったんですよね」。

 そこで澤部がやったのは「自分のなかにクライアントを設定する」という新たな挑戦。つまり、自分自身に対して曲をオーダーするということ。その内容は……。

 「極端にコードを減らして曲を作る、ということですね。これまでは、とにかくコード進行にこだわってきたところがあって、〈ここで転調したら絶対カッコイイだろうな〉なんて思いながら作ってきた。今回はそういうのを一度捨ててみようと思ったんです。それで出来上がったのが“静かな夜がいい”で、スカート屈指の抜けの良い曲になりました」。

 まっすぐに耳に飛び込んでくるメロディーと躍動感溢れるリズム・セクション。それはシンプルになったというより、磨き抜かれた心地良さがある。そして、彼を支えるサポート・メンバーたちの演奏も曲にフィット。なかでもトリプルファイヤー鳥居真道のギターが光る。

 「僕はギターを弾くんですけど、ギタリスト的ではないギターというか(笑)。〈ちょっとフレーズ弾いて〉とか言われても、自分にはそういう引き出しがないんですよ。だから、違う角度でスカートの音楽を見せることができるとしたら、ギターだったりするのかな?と思っていて。鳥居君はセオリーから外れたギターを弾くけど歌心がある。この曲では、そんな鳥居君のトリッキーな部分と歌心の部分とどっちも出たんで、ガッツポーズしましたね」。

 そんな自信に溢れた表題曲を筆頭に、本作には4曲が収録されている。クライアント方式で「詞先(歌詞を先に作って曲を書く)じゃないけど、詞先っぽくメロディーを書く」というお題の元に作られた“おれたちはしないよ”。『CALL』のタワレコ特典だったCD-Rの収録曲のリズム・セクションに手を入れてポップに仕上げた“いつかの手紙”。そうした新曲に混じって、唯一、過去に作った“雨の音がきこえる”が並んでいるのが印象的だ。

 「この曲は19、20歳の頃に作ったんです。いちばん新しい“静かな夜がいい”と、昔作った曲を同居させるというのも意味があるんじゃないかと。前を向くばかりじゃないのがスカートらしいと思うんです」。

 スカートの過去と現在が同居する今回のシングル。さらにDVDが付属されているのも見逃せない。そこには今年5月27日に渋谷WWWで行われた『CALL』のレコ発ワンマン・ライヴの模様が収められているが、「このシングルで初めてスカートを聴く人もいると思うので、ベスト盤的な選曲で、なおかつ演奏が良いものを選びました」と澤部。聴いて良し、観ても良しの本作は、スカートの名刺替わりの一枚として、これまで以上に多くの人々の元へ届けられるに違いない。

 


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ここでは澤部渡が関与した2016年の作品を紹介します。まず、4月にはスカートとしてレーベル移籍後の初アルバム『CALL』(KAKUBARHYTHM)をリリース。風変わりなコード進行ながら親しみやすいポップス、という特性はそのままに、生のストリングスの導入や歌唱へのこだわりなど新たなチャレンジも反映させた〈100%歌心〉の一枚を発表した翌週には、スピッツのシングル“みなと”(ユニバーサル)へも参加。それに伴って口笛&タンバリンのサポートとして出演した〈Mステ〉でも、その存在感で話題をさらいました。また、8月には川本真琴三沢洋紀植野隆司池上加奈恵とのバンド、川本真琴withゴロニャンずのファースト・アルバム『川本真琴withゴロニャンず』(MY BEST!)を発表。ソングライター集団による共作曲がほとんどを占めるサマー・アルバムを送り出しました。そして直近では、岡田徹のニュー・アルバム『Tの肖像』(Solid)でギターと口笛を披露しています。  *bounce編集部