音楽家としての新学期にあたり、改めて表明するポップ・ミュージックの在り方。古いもののなかにこそ見い出すことのできる、本質的な新しさ――彼は〈喪失〉をノスタルジーにしない
新学期が始まる感じ
捻くれているけどロマンティック。孤高にして寂しがり屋。そんな屈折した歌心を荒々しくもポップなギター・サウンドに乗せ、インディー・シーンで注目を集めてきた澤部渡のソロ・ユニット=スカートが新作『20/20』でメジャー・デビュー。〈まさか!〉〈ついに!〉などなど、いろんな声が聞こえてきそうな新たな旅立ちについて、今の率直な気持ちを当人はこう語る。
「正直、戸惑いました(笑)。すごく嬉しいけど、〈大丈夫なのか!?〉って。新しいアルバムを作りはじめた頃に声をかけていただいて、もしかしたら〈もっとポップな曲を書いて〉とか、いろいろ言われるんじゃないかとヒヤヒヤしてたんですけど、自由にやらせてもらえて助かりました」。
思えば前作『CALL』の取材の際に、「ひと区切りついた気がする」と感想をもらしていた澤部。まさに絶好のタイミングでのメジャー・デビューだ。
「本当、そうなんですよ。新学期が始まるって感じですね。『CALL』はこれまででいちばん時間も手間もかけた作品で、すべてやり切ったような気がしたんです。だから、アルバムが完成した後、何もできない時期があったんですよね。そんななかで“静かな夜がいい”(2016年11月のシングルの表題曲)っていう曲が出来た。これまでは好き勝手に曲を作ってきたんですけど、この曲は〈コードを極端に少なくして作ってみよう〉って、ほとんど初めて自分に縛りを与えて作った曲で。それがとても上手くいって、そのやり方でアルバムの曲を作っていくうちに、また縛りなしでも書けるようになったんです」。
『20/20』にはその“静かな夜がいい”も収録されていて、『CALL』以降のスカートが詰め込まれているが、まず本作で印象的なのが臨場感溢れるバンド・サウンドだ。その中心メンバーは前作に続いて、佐久間裕太(ドラムス)、清水瑶志郎(ベース)、佐藤優介(キーボード)、シマダボーイ(パーカッション)。さらにトリプルファイヤーの鳥居真道やKIRINJIの弓木英梨乃らがゲストで参加している。
「今回のバンド・サウンドに関しては、ドラムにこだわりました。ドラムが気持ち良いレコードは大好きなので、ドラムの響きとか空気感を大切にしたんです。あと、ギターも見直しました。これまでの作品は、自分が持っているギター一本でアルバム一枚を録っていたんですけど、今回はほかにもギターを3~4本用意してもらって、曲によって使い分けたんです」。
例えば、“手の鳴る方へ急げ”。ダイナミックなドラミングや突き刺さるようなギターなど、タイトなバンド・アンサンブルが炸裂するこの曲は、「サイケデリック・ロックとソフト・ロックを足してみたい」というアイデアから生まれたもの。ハードなサウンドに、凝ったコード進行が隠されているあたりがスカートらしい。また、映画「PARKS パークス」のサントラに提供した曲で、映画では澤部がキャストとして出演して歌った“離れて暮らす二人のために”のバンド・ヴァージョンも収められている。
「この曲をバンドでやる場合、ギターと歌でささやかに始まって、どんなふうに音が重なっていくのか?っていうところに気を使いましたね。バンドがいきなり入る感じとか、キーボードが少しフレーズを弾いてサビに入るとか。映画でいうと、カットを割らずにワンカットでシーンを見せるような気持ちでアレンジしました」。
また、バンド・サウンドを中心としたなかでアクセントになっているのが、澤部がひとりで多重録音した“わたしのまち”だ。主人公の日常生活を綴った歌詞や内省的な雰囲気は、スカートにしては珍しい。
「これまでスカートにはシンプルな曲がなかったから、一回作ってみようと思ったんです。まず、詞を先に書いて曲を付けたんですけど、これまで、こういう私小説風の歌詞は書いてこなかったので、歌う時は少し照れましたね(笑)。でも、最終的にはアルバムに上手くはまったと思います」。