平田王子&渋谷毅のデュオ・ユニットLuz do Sol、心の襞をそっと震わせる情感豊かな音楽

 ディスクをスタートさせると、ピアノとアコースティック・ギターの柔らかなアルペジオと、サブトーン豊かなテナー・サックスのオブリガートが流れ、その後ふんわりとした歌声が聴こえてくる。部屋の空気が変わった。それまでの、急かされるようにして進んでいた時の速度が一気に落ち、ゆったりとした時間が流れ始める。すでに自分の心と身体がアルバムの世界に入り込んでしまっていることを実感する。

Luz do Sol 『雨あがり』 soramame(2023)

 その妙なる音楽を紡いでくれるのは、平田王子と渋谷毅のデュオ・ユニット、Luz do Sol(ルース・ド・ソル)だ。たびたびボサノヴァの本場ブラジルに渡り、その音楽を吸収。これまでに9枚のアルバムを発表するほか、自身のソロ活動や大口純一郎、宮野裕司、加藤崇之らとのコラボレーションなど多彩な活動を展開するシンガー&ソングライターの平田王子。そして1960年代から活動を開始し、ソロ・ピアノやラージ・アンサンブル〈渋谷毅オーケストラ〉での演奏、作編曲など多方面で活躍を続ける渋谷毅。ブラジル音楽とふたりのオリジナル曲を織り交ぜながら、人の心に寄り添う抒情性豊かな音楽を描き続けているデュオ・ユニットが発表した5th作品は、ふたりにしか出すことのできない優しさとしなやかさに溢れたアルバムだ。

 小野リサ&エリオ・セルソの共作による前述の“ボレロ・カンサォン”でスタートした後も、この世を去った友人への感謝の念をそっと綴る“グルーミング”、ゲスト参加する松風紘一のソプラノサックスとともに陽光のきらめきを歌いあげる“雨あがり”などの平田作品や、渋谷の味わい深いヴォーカルがフィーチャーされる“葛の香”など、心の襞をそっと震わせる情感豊かな演奏が続き、サウダージ感あふれるアントニオ・カルロス・ジョビン作の最終曲“もう一度”へと連なっていく。ここで終わってしまうのはあまりに惜しいと思える豊かな時間。躊躇うことなくもう一度〈PLAY〉のボタンを押した。

 


EVENT INFORMATION
タワーレコード渋谷店にてミニライヴ&サイン会!
2023年3月5日(日)タワーレコード渋谷店 7F
開演:15:00~
出演:平田王子/渋谷毅
https://towershibuya.jp/2023/01/22/176923