渋谷毅&仲野麻紀 一期一会の出会いが生んだ奇跡の演奏
アルトサックス、メタルクラリネット、各種民族楽器、ループなどを駆使しながらジャズ、現代音楽、民族音楽などをフューズさせた独自の音楽を確立。パリを拠点に世界各国で演奏を繰り広げる仲野麻紀。そして、ソロ演奏やラージ・アンサンブルの主宰、作編曲など多方面に活動を展開するピアニスト渋谷毅。それぞれに確固たる音楽世界を描きあげるふたりが、群馬県伊香保温泉近郊にあるWorld Jazz Museum 21(以下WJM)で開催した初共演ライヴを収めたアルバム『アマドコロ摘んだ春 ~ Live at World Jazz Museum 21』を発表。同作について仲野に話を聞いた。
「私が渋谷さんを初めて聴いたのは20年以上前の高校生の頃。地元名古屋のライヴハウスで聴いた演奏に魅せられたんです。そしてその憧れが、昨年に渋谷さんが発表したアルバム『カーラ・ブレイが好き!!』を聴いたことによって再燃。ですから、WJMから演奏のオファーをいただいた時、とにかく渋谷さんとやらせてくださいと(笑)」
彼女の一途な願いが叶って実現したライヴは、第1部:仲野ソロ、第2部:渋谷ソロ、第3部:デュオという3部構成。『アマドコロ~』では、すべての曲順が再構成され、アルバム独自の音楽ストーリーを描いている。その中で最も強い光を放っているのが、ふたりの音が自然発生的に絡み合うトルコの伝統曲“ウスクダラ”だ。
「ジャズ・ライヴって一期一会のものだと思うんです。演奏者同士だけでなく、お客さん、スタッフ、みんなの想いが通じ合った場に生まれる演奏こそがジャズの神髄。この曲では当初、渋谷さんはレイオフされるはずだったんです。その渋谷さんにピアノを弾かせたのは会場の皆さんの想いだったように思います。私の歌っている後から渋谷さんのピアノの音が聴こえてきた時には、誇張ではなく、本当に心が震えました」
そうした心の籠った作品のジャケットを飾るのは羽角聡子。春の薫りのする清新なアートワークもこのアルバムの嬉しいところだ。
「羽角さんは私の大好きなデザイナー。CDのデザインは初ということですが、彼女の瑞々しい感覚が欲しくて是非にとお願いしたものです。音楽とアート・デザインを溶け合わせた今回の作品のように、俳句と音楽を合体させたCD-BOOKや、ヴォーカル・アルバムの制作など、今後も新しいことにチャレンジし続けていこうと思っています」
旅する音楽家、仲野麻紀の旅はまだまだ広がっていきそうだ。