三人一体となって永遠のループを巡る、音楽のダマシ絵
他では体験したことがない揺らぎと、ぐるぐる永遠に巡るような心地よくも終始感のないグルーヴが、3人の対話から引き起こされる。ひとつは市野元彦(g)の音に対する執着と特異な作曲法によって、この不思議な時間感覚を有した音楽は生み出されるのだろう。実際、最終的に意味深なタイトルが付されるオリジナル曲群も、作曲時には何の具体的イメージや全体構成さえ頭にはなく、ふと浮かぶ音粒の行方に従ってその後のラインやコードを出現させていくのだという。
「だから多くでは偶数小節の単位でメロディは進行していないし、理屈に則ったコード進行も出てはきません。でもなぜか……これは偶然の産物ですが、心地よい決着が得られるために多くはそこに気づかないようです。じつは同じことがくり返されているようにみえて、1周してみると知らない間に半音のキー・チェンジがなされていたり、初めとは数拍ズレてメロディが出てきていたりする。つまり僕の作る曲って、一種の音楽のダマシ絵のようなものなのでしょう」(市野)
渋谷毅(p)は自身でオーケストラを率いながら、ここのところはデュオによる活動に意欲的である。コード楽器の、ことにギターとやる一対一の創作作業に相性があり、その中でも市野との表現活動が現在一番のお気に入りとか。そんな渋谷からのラヴ・コールで、6~7年前に2人の共演は実現した。市野に言わせれば、その初回から渋谷は、自らが書いてくるダマシ絵の世界観をそのステージ上で表現しきっていた。
「僕の理解で弾いたものだから、市野さんの書いてくるオリジナルの本質にまで行き当たっているかどうか分からない。実際になぜこんな進行をさせるのか今もってして分からない曲もあるんだけど(笑)、僕は彼の曲のどれにも心地よくなれるし、市野さんがその瞬間瞬間に出してくる単純なギター・ラインにも、一緒に弾きながらうっとりさせられているんです」(渋谷)
とくにハーモニーに対する美意識に、同じセンスを感じるという。また常套的なリズム・パターンが皆無であることにも気づき、両者の拘泥強さを突きつけられるのだ。くり返すごと2人の親密で、奇抜で、心地よい音世界は深まり(最初の共演からレパートリーもほぼ同じ)、威容グルーヴ製造人・外山明(ds)も加えてさらに触感にザラツキを添えてきた。以来、確信的浮遊感が深みを増して、もはやなくてはならないドラマーとなっている。この3者の熟しきった演奏を捕らえたのが今回の『チャイルドフッド』であり、3人はどこからどこまでが役割というのではない、ひとつ特殊な楽器の同じ共闘者となって一体化し、ジャズとは特定し得ないひとつ音楽を表現しきってみせた。
LIVE INFORMATION
渋谷毅、市野元彦、外山明『Childhood』発売記念ライヴ
○8/22(月) 会場:アケタの店(西荻窪)
○9/9 (金) 会場:ノートランクス(国立)
○9/14(水) 会場:アケタの店(西荻窪)
○11/18(金)会場:ル ヴェソン ヴェール南大沢(首都大学内)
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