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昔ながらのやり方

 とはいえ、先述したNMEのインタヴューでパトリックが慎重に〈これはスロウバックではない〉とわざわざ念押ししているように、そうしたある種の回帰を近年のポップ・パンク/エモのリヴァイヴァル現象などの外因と結び付けるのは安直かもしれない。その変化はあくまでも本人らの内側から生じたモード変更でもあり、パトリックが「現代はテクノロジーのおかげでレコードが速く制作できるようになって、それは何ひとつ悪いことではない。でも僕たちは昔ながらのやり方で制作することを選んだ。僕たちは繊細な料理のように慎重に制作され、計画的で根気よく導かれた作品を作りたかった」というコメントを見るに、マインド的な揺り戻しのニュアンスが大きいのだろう。今回はアヴロンと組んだ過去3作の制作途上で存在していたアイデアと近年のサントラ仕事で培ったパトリック自身の経験が反映されているそうで、その意味では〈あの頃の続き〉でもあり、同時に現在のFOBらしい音でもあるわけだ。

 ストリングスで始まる“Love From The Other Side”と80s感覚のシンセも用いてドラマティックに駆ける“Heartbreak Feels So Good”というアタマ2曲のエモーショナルな先行カットだけでも、軸となるシンプルなバンド・サウンドの逞しい一体感は伝わることだろう。その範疇においてアレンジも多彩で、クラップが印象的なダンス・ロック“Hold Me Like A Grudge”や浮遊感のある80sポップな“Fake Out”、モータウン・ビートの“So Good Right Now”など親しみやすい楽曲が居並ぶ様はまさに『Infinity On High』の頃に通じるかもしれない。EW&Fの“September”を下敷きにした“What A Time To Be Alive”の微笑ましさから一転、ラストのディープな表題曲まで、起伏の激しい感情を溢れさせたFOB印の名曲が揃っている。

 なお、本作のリリースに前後してジョー・トローマン(ギター)がメンタルヘルス治療を理由にバンドから一時離脱することを表明したが、FBRの援護を得たこの充実作によってFOBがまた新たなフェイズに入ったのは確かだ。パトリックは満足げにコメントを締め括っている――「自分にはあまり誇りを持てないけど、このアルバムのことはとても誇りに思っている!」。 *出嶌孝次

左から、マーティン・ギャリックスの編集盤『The Martin Garrix Experience』(ソニー)、パトリック・スタンプが手掛けた2019年のサントラ『Spell』(Milan)、MAN WITH A MISSIONの2021年作『Break and Cross the Walls I』(ソニー)、100gecsの2021年作『1000 Gecs And The Tree Of Clues』(Dog Show)

FOBの作品。
上段左から、2003年作『Take This To Your Grave』(Fueled By Ramen)、2005年作『From Under The Cork Tree』、2007年作『Infinity On High』、2008年作『Folie À Deux』、2009年のベスト盤『Believers Never Die: Greatest Hits』(すべてDecaydance/Fueled By Ramen/Island)、2013年作『Save Rock And Roll』(Decaydance/Island)、2015年作『American Beauty / American Psycho』『Make America Psycho Again』(共にDCD2/Island)、2018年作『Mania』、2019年のベスト盤『Believers Never Die Volume Two: Greatest Hits』(共にIsland)