ニラジ・カジャンチ

音楽業界でいま注目を集めている新技術、空間オーディオ/イマーシブオーディオ。これまでのステレオやチャンネルベースのサラウンドなどとは異なる発想で、音楽が鳴っている空間、アトモスフィアを立体的に体験・没入できるテクノロジーだ。その代表的な規格である〈Dolby Atmos〉(以下、Atmos)は、映画館では一般的になってきている。いっぽう音楽作品についてはアメリカを中心に普及されてきているが、日本国内ではまだまだの状況。そんななか、日本のジャズに特化したレーベルのDays of Delightが、作品のAtmos化に乗り出した。Days of Delightは、ジャズ作品をなぜAtmos化するのか? その楽しみ方や魅力とは? レーベルの作品を数多く手がけ、今回のAtmosミックスを行ったNK SOUND TOKYOの代表であるエンジニアのニラジ・カジャンチとレーベルのオーナープロデューサーである平野暁臣に訊いた。 *Mikiki編集部


 

Days of Delight作品をDolby Atmos化すれば説得力あるメッセージになる

――ニラジさんがAtmosに取り組もうと思ったきっかけは何ですか?

ニラジ・カジャンチ「Atmosは2012年に登場したテクノロジーで、それから10年ほどの間にすごいスピードで動いているんです。アメリカの音楽業界の一般認識としてその言葉を聞くようになったのが大体5年くらい前。

でも日本の音楽業界では未だにそうなっていないと実感していて、1年半ほど前から日本でAtmosスタジオを作りたいなと思い始めました。Atmosに特化した機材を揃えるにはかなりお金がかかるんですが、ぼくは、日本の音楽業界が次に向かうべきところはここだ!と考えて決断したんです。ハイレゾが出た時も思ったんですが、その向かうべき場所に最もフィットする道=音楽はジャズとアニソンなんですよね」

――ジャズとアニソン?

ニラジ「そうです。ハイレゾを買ってくれるリスナー、とりわけオーディオマニアが一番聴いているのは、ジャズ、アニソン、クラシックだろうと思います。実際、アメリカのブルーノート・レコーズやヴァーヴ・グループなどのジャズレーベルは既に多数の作品をAtmos化しています。これから日本でAtmosに取り組んでいくのも、おそらく大手でしょう。

でもぼくは、彼らがやる前にインディーズでやりたかった。こういうことこそマイナーレーベルの仕事だと思うからです。メジャーの力を借りずにインディーズでやっていった方が口コミ効果も大きいし。

そう考えた時に、真っ先に頭に浮かんだのがDays of Delightでした。ぼくが何作も関わってきたDays of Delightのコンテンツを全部Atmos化して出せば、説得力のあるメッセージになるだろうと思ったんです」

――ニラジさんに去年お話を伺った時、最新のものがベストであるとおっしゃっていましたが、その延長線上に今回のAtmosもあるのでしょうか?

ニラジ「もちろん基本的な考え方は変わっていません。2025〜2026年頃になれば、たぶんAtmosはもう少し一般的な言葉になると思うけど、とはいえ、ぼくみたいな人間が実際にコンテンツを作っていかないとそうならないことも確かですからね」