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螺旋を描いて昇っていく

 そして、カップリングにはレイドバックした空気のミディアム・ナンバー“Spiral”がエントリー。kevin mitsunagaも編曲を担ったこの曲の歌唱は、平歌を佐藤が、サビをtowanaが、ラップ・パートをkevinが担当。3人が等しくマイクを取るというこれまでにない構成だ。

佐藤「全員歌唱っていうのは狙ってたわけではなく、結果的にそうなったというか……。プリプロをやったときに平歌のキーが低すぎてtowanaが歌えないとなって、それなら電子的に加工するのはどうかなって話をしてたんですけど、その準備をレコーディング直前まですっかり忘れてたんですよ。じゃあ自分で歌うしかないと、慌てて練習しました(笑)。トラックはちょっとチル感のあるエレクトロな曲をイメージしてたんですけど、想定よりもグルーヴィーに仕上がったなって。デモでは打ち込みだったベースをandropの前田(恭介)くんに弾いてもらって、そこに本多くん(インナージャーニーの本多秀)のギターも加わって、towanaの後半の歌い方も含めて、デジタルな要素と生のグルーヴがおもしろいバランスで融合した曲になったなと思いますね」

kevin mitsunaga「“Spiral”では佐藤さんから打ち込みでもらったドラムにリズム・トラックをレイヤーしたり、デジタルな要素を全般的に担当してます。いちばん気に入ってるのはラップ・パート。ガラッと印象を変えたいなと思って、fhánaでは入れたことのないスクラッチ音をめちゃくちゃ入れたんですよ。そこが即OKだったときはガッツポーズが出ました(笑)。90年代ヒップホップっぽいトラックのなかでラップするのは気持ち良かったですし、スチャダラパーみたいなユルさを感じる林さんのリリックともうまくハマったなと思います」

佐藤「曲調は“Runaway World”と対照的だけど、“Spiral”にもわりといまのfhánaのムードが反映されてると思います。作り方も真逆で、“Runaway World”はベースに須藤さん(XIIXの須藤優)、ドラムスによっち(河村吉宏)、ストリングスに真部(裕)さんという凄腕のミュージシャンを迎えて伝統的なスタジオ・ワークで作ったんですけど、“Spiral”は宅録中心で。ミックスも僕がやってるので、DIYって感じですよね。だけど、どっちもfhánaらしいところがいいなと思って」

towana「普段は歌詞を書いてからタイトルを付けることが多いんですけど、“Spiral”はタイトルが先でした。前回の『Cipher』は〈0(ゼロ)〉っていう意味で、“Spiral”はその円(0)が〈螺旋〉を描きながら昇っていくイメージ。デビューから10年経って原点回帰と思いきや、じつは体制や環境が変わってアップデートされていて、そこからさらに昇っていきたいなって気持ちを歌詞にしています」

佐藤「物語の基本形式ですね。『行きて帰りし物語』です。それで言うと、ツアーで回るのが京都MUSEとshibuya duo MUSIC EXCHANGEなのにも理由があって。fhánaは京都を舞台にした『有頂天家族』のエンディング曲でデビューしていて、京都アニメーションの『小林さんちのメイドラゴン』とのタイアップもあったりする。duoも、fhánaの最初のワンマンの会場で、ファースト・アルバムのツアーがスタートした場所でもあるので、京都もduoもfhánaの出発点に立ち返って、また新しく始めようみたいな。2017年のものとかけたツアー・タイトルも、これまでの連続性のなかで新世界を探しに行こうってところから付けてます」

 音楽と共に歩んできたキャラバンの〈旅〉は、変化のときを迎えて〈新世界を探す冒険〉へ。ここからのfhánaは、かつて以上にアクティヴだ。

towana「もう、〈やるしかない!〉って気持ちです。だからか、3人とも自然と同じ方向を向いてる気がします」

kevin「この状況だからこそ、前向きな推進力を持てているんじゃないかな」

佐藤「この後のfhánaは8月にデビュー10周年を記念したベスト盤のリリースがあって、10月7日(土)にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での周年ライヴも予定されていて。それら新しい冒険の出発点が今回のツアーなんです。さらに先の2026年には結成15周年を迎えるので、まずはそこに向かってグイグイ攻めていきたいなと思っています」

fhánaの近作を紹介。
左から、2018年作『World Atlas』、同年の5周年記念ベスト盤『STORIES』、2022年作『Cipher』(すべてLantis)

佐藤純一の手掛けた楽曲を含む近作を一部紹介。
左から、Morfonicaの2023年作『QUINTET』(ブシロードミュージック)、三森すずこのベスト盤『RPB』、福山潤の2023年のシングル“NEW DRAMA PARADISE”(共にポニーキャニオン)

シングルに参加したプレイヤー陣の関連盤を一部紹介。
左から、XIIXの2021年作『USELESS』(トイズファクトリー)、インナージャーニーの2022年作『インナージャーニー』(鶴見river records)