新しい世界線が描くのは、地に足の着いた日常の物語――現体制で初めて仕上げたフル・アルバム『The Look of Life』は鮮やかな彩りで生活と生命を祝福する!

生活が戻ってきた

 時代の激動とバンドの10年の道程をドキュメントとして重ね、閉塞感のなかで希望に手を伸ばした前作『Cipher』(2022年)から一転。3人体制となって初のフル・アルバム『The Look of Life』において、fhánaはまた新たなモードへ突入している。

fhána 『The Look of Life』 コロムビア(2024)

佐藤純一「『Cipher』は2019年から2022年ぐらいの間に作った作品で、当時の時代背景やfhána自体の状況も含め、けっこうシリアスな作品だったと思うんですよ。そんな時期を過ごして、いまは完全とはいかないにしてもようやく普通の生活が戻ってきて、fhánaとしても新体制でまたワクワクドキドキ、楽しいことが待ってるみたいな、そんな状態にあって。だから次は、明るくて温かみのある、優しい作品を作りたいなと思ったんですよね。いままでのfhánaは壮大で、神様目線の曲が多かったけど、もっと一人一人の心や生活に寄り添うような、日常のちょっとした煌めきや尊さを歌うような、そんな世界観のアルバムを作りたいなと」

 軽やかに舞うビートと、生活の断片を映した〈声〉のコラージュ。小沢健二好きの佐藤らしい副題を冠したエレクトロニカの“Introduction(life is coming back)”から表題曲“Look of Life”へと滑らかに繋がる――まさに〈日常が帰ってきた〉場面から本作の物語は始まる。

佐藤「“Look of Life”は紆余曲折の果てにここに辿り着いたんですけど、最初は〈明るいアルバム〉ってところから“World Atlas”(2018年)みたいな曲を作ろうとしてたんですよ。でもイメージに合う曲が出来なくて、それなら同じミドルテンポの“僕を見つけて”(2019年)を明るくしたような曲調で作ってみようとしたけど、それもダメで。それで試行錯誤してたらこの形が……シンプルだけどちゃんとポップで、しかもアレンジはバンド・サウンドで、っていう曲が出てきて。こういうタイプはこれまでのリード・ソングで意外になかったので、新しい方向性という意味でも風通しが良くていいなと思いました」

towana「いままでの歌詞は上から俯瞰したものが多かったけど、今回は全体的に視点がすごく下がって〈日常〉とか〈生活〉を歌ってるから、〈僕〉にかかる力が強いなと思って。抽象的な部分が減って、歌詞がより等身大なんですよね」

kevin mitsunaga「“Look of Life”って、僕が中学生ぐらいの頃に聴いてたエヴァーグリーンな音楽を思い出すんです。それでどこか懐かしく感じたし、そういう曲がレーベルを変わって一枚目のフル・アルバムの表題曲っていうのは逆に新鮮だなと」