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〈CITY POP UP STORE FOR YOU @ TOWER RECORDS SHIBUYA〉の様子 ※タワーレコード渋谷店のポップアップストアは終了しました

〈アブ〉と呼ばれていた頃の坂本龍一との思い出

クリス「この間、達郎さんがラジオで坂本さんを連れてきた方の話をされてて、長門さんの名前は出ていなかったんですけど、引き合わせたのは長門さんですよね?」

長門「そうですね。最初、坂本くんは〈教授〉と呼ばれる前、〈アブ〉と呼ばれていたんですよね。

74年ぐらいかな、あの頃、ロフト・チェーンっていうのがあって、烏山、西荻、そして荻窪に新しくロフトができたんですよ。74年の開店時から僕は荻窪のブッキングを始めたのですが、西荻で友部正人さんのライブを見ていたら、キーボードが坂本くんだったんです。見た目と洗練された演奏のギャップが大きくて」

クリス「ギャップというのは? みなさん、演奏はどういう音かわかると思うんですけど」

長門「最初に会った時は、サンダル履きでロングヘアー。ヒッピーみたいな感じでした」

クリス「坂本さんだったら、かっこいいじゃないですか」

長門「かっこいいと思いましたよ」

クリス「だけど、出す音とはちょっとイメージが違う?」

長門「そうですね。彼が弾くキーボードはすごく洗練された、繊細な音だった」

クリス「チャーリー・カレロも、そう思ったそうです。デモテープを聴いて、〈このピアノ、誰が弾いているんだ?〉と言って」

長門「でも、僕は彼のバックグラウンドを知らなかったんです。その時は〈僕は荻窪ロフトにいるから〉と挨拶だけして、後日、オーナーの平野(悠)さんが〈坂本は藝大(東京藝術大学)生なんだよね〉と教えてくれて。

で、ある夜、彼が荻窪に来て、すごく気さくに話しかけてきてくれたんです。それで2人して夜中まで飲んで、ちょっと酩酊して……クリスさんみたいにお化粧してね」

クリス「すみません、今日は生のイベントに出てきたので、お化粧がこんなに濃いんです!」

会場「(笑)」

クリス「一番ウケるところがここですよ! 今までみんなシーンとしていたのに、達郎さんと関係ないところでウケるという」

長門「僕と坂本くんは、もっと濃い化粧でした」

クリス「もっと濃い(笑)! “い・け・な・いルージュマジック”みたいに?」

長門「あれの先を行っていましたね。

その時、ロフトにお客さんはいなかったんですけど、彼がグランドピアノを弾いて、僕がドラムを叩いて、もうめちゃくちゃですよ。それで仲良くなって、夜毎、荻窪の飲み屋に行っていました。彼は演劇関係の友達も多かったのですが、その中にすごく綺麗な女性がいてね。アンナ・カリーナみたいな子だったんですよ。坂本くんと彼女とよく飲み歩いて、夜中に3人で荻窪の街をかけっこをしたりして」

クリス「かけっこ(笑)?」

会場「(笑)」

長門「ゴダールの『Bande à part(はなればなれに)』って映画があるじゃないですか。あれにルーヴル美術館を駆け抜けるシーンがあって、それを真似したんですよ」

クリス「若い! 青春!」

長門「もう、酔っていますからね。映画の主人公の名前を呼んでみたり、ゴダールごっこをやったりして」

 

一枚の自主制作盤が大瀧詠一の元に

長門「で、坂本くんはピアノの演奏があんなにすごいわけですから、それで山下くんに紹介したのが最初ですね」

クリス「そこで達郎さんは、初めて坂本さんとお会いしたと」

長門「シュガーの連中が福生の大瀧(詠一)さん家でリハーサルをやっていたので、僕が坂本くんを車で連れていって。坂本くんが大瀧さんと出会ったのは、その時ですね」

クリス「ところで、大瀧さんと達郎さんとの橋渡しになったのは伊藤銀次さんですよね?」

長門「そう。銀次が、高円寺のロック喫茶ムーヴィンで『ADD SOME(MUSIC TO YOUR DAY)』のレコードを聴いたんです。

はちみつぱいのコマコ(駒沢裕城)と一緒にいて、コマコや岡田徹さんと仲が良かった仙台出身の女の子がいたのですが、その子が『ADD SOME』のレコードに……」

クリス「針を落とした」

長門「そう。その前にビーチ・ボーイズをかけて、そのあとに面白がって、〈気づくかな~?〉みたいな感じでしょうね、『ADD SOME』をかけて。銀次は、〈ビーチ・ボーイズにしては……?〉みたいな感じだったんでしょうね。〈これはなんだ?〉となって、大瀧さんにご注進したんですよね」

クリス「今、話があっちこっちに飛んでますけど……」

長門「すみませんね(笑)」

クリス「複雑なんですよ! 登場人物が多すぎる!! それこそ『ADD SOME』の話に戻ると、当時、ラジオ関東で山本コータローさんがあの盤をかけたんですって。ご存知でした?」

長門「ディスク・チャートのセッションを見学に来たこともあるコータローさんと若林純夫さんが、2人で番組をやっていたのかな?」

クリス「そう! そこで紹介したんですって。そういう風にプロのミュージシャンの人たちが何かを感じて、あの一枚の自主制作盤がこんなに広がっていったわけです」

長門「及川恒平さんのソロアルバムの裏ジャケに、『ADD SOME』のジャケットが写っているんですよ。彼も持っていたんですね」

クリス「すごいことですよね」