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 テクノとロックをタイトにミックスした“El Hop”で幕をあける『1STST』はニューウェイヴ風味をきかせたファンクチューン“Moneyman”に疾走感のバトンを渡し、白根賢一によるエレクトロな“Japanalog”、ディスコテティークな“Dreamtalk”へつづく中盤以降は多様性へおりかえしていく。今井らしさが前に出た“Over Yourself”と80Sポップな“Bumrush”、掉尾を飾る“Stranger”と“A Natural Life”では永井のセンスとプレイがTESTSETの間口を広げていることに思いいたる。久方ぶりにアルバムらしいアルバムを聴いたという満足感をおぼえる一作だが、その余韻の背後には「オムニバスやコンピレーションではなく、ちゃんとバンドのものにしたい」(砂原)との狙いがあり、そのような構えを貫徹することで、『1STST』はTESTSETの別天地となった。そこにいたる道のりはなまなかなものではなかったことはすでに述べた。おもな要因は自身の強欲さだと砂原はいう。「もっといいのが出てくるんじゃないか、なにかに気づいていないことがあるんじゃないか」とつい考えてしまうのだという。

 「電車のドアしまってもまだ乗ろうとするというか、なんらな閉まりかけのドアに傘の先をさしこんで、まだあきらめない。反省はしてみるんですが、また同じことのくりかえしなんです」

 車掌役を自認しながら運行ダイヤの狂いをいとわない創作欲には頭がさがるが、全身全霊を傾けつづけてはじめて、音楽は記号や様式に還元しえない奥行きをもつ、との確信というよりは習い性になった営みのようなものを砂原のことばは感じさせる。注力の対象は楽曲の旋律、リズム(パターン)、アレンジといった細部のみならず、作品の構成や構造といった全体におよんでいく。アルバムの構成については「僕が提案した曲順と砂原さんのはほぼ一緒だった」と今井はいう。それをひきとって砂原は「微調整はしたかもしれないけど、5~6曲仕上がってきていた段階で、だいたいこんな感じかなという自分のなかにあったイメージがLEOくんと一致しました」と付言する。今井はさらに、この展開には夜から朝へむかうようなイメージがあると説明する。「不穏でエレクトロ色の強い、夜っぽいちょっとキラキラギラギラした感じから後半にいくにつれてトラディショナルなバンドサウンドが入ってきて、ある意味明るくなっていく」。この見解はサウンドにも、具体的にあらわれている。1曲目の“El Hop”の冒頭、シンセの皮膜の向こうにうっすら聞こえる鳥の声は夜のものであり、終曲の“A Natural Life”ではそれが朝の声になっている。砂原によればそれは同じ場所で、循環する時間をあらわしているのだという。

 「前向きとか後ろ向きとか、そういった話ではなく、黙っていても時間はすぎ、ドラマ性が自然にうきあがってくるということなんですね」

 砂原の発言にはMETAFIVEからTESTSETへの移行を彷彿するものがある。夜と朝との対比と比喩はからずしても平時とはいえないこの数年をあらわすかにもみえる。ほとんどの楽曲の作詞にかかわった今井によれば、歌詞は響きを優先したものであり、批評的な側面は意図していない。とはいえそこには社会と文明への警句は随所に読みとれる。そしてそこには事実と虚構、平時と戦時、人工と自然といった典型的な二項対立にもはや回収できず、複雑にいりくんだまま漂う今日的な命題の反映もある。たとえばこのところ話題の生成AIについても、それがもたらす未来は想像とはちょっと違うんだろうなという気がしていると砂原はいう。

 「あからさまなディストピアもユートピアもなさそうな気がするんですね。たとえばいま、こういう曲がほしいということでAIにつくらせたとしても、そうじゃないよ、と思う気がするんです。なぜなら世の中の需要、ニーズが多いものからそういうことに対応していくので、私のほしいものと世の中のニーズはぜんぜん合致していない。その状態のまま寿命まで逃げきろうかと(笑)」

 ユーモアにくるんではいるが、アートの存在意義を剔出する発言ではないか。

 


TESTSET(砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一)
FUJI ROCK FESTIVAL ‘21にMETAFIVEの特別編成として出演した砂原良徳とLEO今井が、GREAT3の白根賢一(ドラムス)と相対性理論の永井聖一(ギター)を迎え、グループ名を新たにTESTSET(テストセット)と冠してライブ活動を開始。2022年に1st EP『EP1 TSTST』リリースし、SONIC MANIA、朝霧JAMなどに出演。2023年7月12日にファーストアルバム『1STST』をリリースする。

 


寄稿者プロフィール
松村正人(まつむら・まさと)

1972年奄美生まれ。編集者、批評家。合同会社JOURNAL副代表。著書に「前衛音楽入門」。編著に「捧げる 灰野敬二の世界」「山口冨士夫 天国のひまつぶし」、共編著に「青山真治アンフィニッシュドワークス」(河出書房新社)など。https://www.journal.cx/

 


LIVE INFORMATION
TESTSET LIQUIDROOM 19th ANNIVERSARY

2023年7月13日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:19:00/20:00
前売:7,000円(税込/ドリンクオーダー別)
e+:https://eplus.jp/sf/detail/3848310001-P0030001
LAWSON Lコード:75736 https://l-tike.com/order/?gLcode=75736
チケットぴあ Pコード:241-804 https://w.pia.jp/t/testset/
*1人4枚まで

主催:LIQUIDROOM
企画制作:LIQUIDROOM

FUJI ROCK FESTIVAL ’23
2023年7月28日(金)~2023年7月30日(日)

https://lit.link/TESTSET